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IGZOを超える「有機半導体」、分子設計からトランジスタまで日本発の新技術移動度10cm2/Vsを実現(1/5 ページ)

シリコンでは実現できない新しい機能性有機材料を東京工業大学の半那純一教授、飯野裕明准教授のグループが開発した。大きく3つの成果があるという。低分子系有機トランジスタ材料で耐熱性と成膜性を実現したこと、多結晶膜で高い移動度を得たこと、2分子層構造を利用して高移動度が実現できたことだ。

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 「20年前に開始した研究が実った。機能性有機半導体に利用できるシリコンでは代替できない材料を開発し、移動度の高い有機トランジスタの試作に至った。液晶の特定の性質を自在に引き出すことができる分子設計手法を確立し、容易に均一で平たんな成膜ができるようになった。製造プロセスに必要な耐熱性も備えた材料だ」(東京工業大学理工学研究科附属像情報工学研究施設教授の半那純一氏、図1)*1)

*1) 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成プログラム」によって実施した「液晶性有機半導体材料の開発」の成果。半那研究室と大日本印刷の共同研究である。材料と基礎物性、デバイス応用の3本柱からなる。2015年4月10日に公開したNature Communications Online(10.1038/nchem.2174)に「Liquid Crystals for Organic Thin Film Transistors」として掲載された。


図1 東京工業大学理工学研究科附属像情報工学研究施設教授の半那純一氏 液晶材料の4つの相を示している

 開発した低分子系*2)有機トランジスタの特徴は2つある。まず移動度が高いこと。酸化物半導体(IGZO)並みの10cm2/Vsという値だ。「今回の値に近い有機トランジスタを報告している研究報告は幾つかある。ただしこれまでの報告では単結晶を利用している。単結晶では有機トランジスタとして利用が難しい。今回の成果は多結晶*3)の移動度であり、より実用に近づいた形だ」(東京工業大学理工学研究科附属像情報工学研究施設准教授の飯野裕明氏)。

 単結晶では素子間の特性ばらつきが大きい。多結晶では素子の特性をそろえやすいということだ。「トランジスタを50個形成し、移動度は11.2±1.2cm2/Vsの範囲(標準偏差1.17)に収まった」(半那氏)。

 もう1つはプリンテッドエレクトロニクス(印刷エレクトロニクス)に適用しやすいボトムゲート・ボトムコンタクト型トランジスタであることだ。基板上に電極や絶縁膜を形成した後、塗布プロセスで有機物を載せるだけでトランジスタを作り出すことができる。フレキシブル液晶テレビや有機ELディスプレイへの応用に期待がかかる。

*2) 低分子系有機半導体材料は、一般に精製が容易で高品質の結晶を作りやすいという利点があるものの、均一で平たん性の高い結晶薄膜を得にくく、耐熱性にも難がある。高分子系の性質は逆だ。成膜性や耐熱性はよい。ところが結晶性に課題があり、高移動度を実現するために200℃以上の熱処理が必要になる。原材料自体にも問題が残る。材料の精製や分子量分布の制御、合成の信頼性だ。
*3) 「多結晶といってもシリコンのように粒界があるためキャリアが失われやすくなるのではない。XYZの方向の周期性のうち、Z方向の周期性を保ちながら、他の方向の周期性が長距離においてずれていく形だ」(飯野氏)。

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