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ARMから見た7nm CMOS時代のCPU設計(9)〜CPUの性能向上に不可欠な設計の「手戻り」:福田昭のデバイス通信(20)(2/2 ページ)
今回は、LSI設計作業の所要時間について解説する。設計の各工程ではイタレーション、つまり「手戻り」と呼ばれる修正作業が発生する。CPUの動作周波数を上げるためには、膨大な数の手戻りが行われている。
ゲートピッチは短ければよいとは限らない
設計の修正作業を繰り返すことによるフロアプランの変化を見ていくと、動作周波数の増大に伴ってシリコン面積が増大していることが分かる。動作周波数が高いフロアプランは、シリコン面積が明らかに大きい。一般的には、シリコン面積が大きくなると配線長が伸び、負荷容量が増加するので動作周波数はあまり伸びないとされている。しかし実際にはしばしば、シリコン面積が大きい方が動作周波数が高いことがある。
さらに興味深いのは、基本単位であるゲートピッチの扱いだ。ゲートピッチは短ければよいとは限らない。ゲートピッチを長めに確保した方が、CPUの動作周波数は高くなり、しかもシリコン面積が小さくなることがある。
キャリア移動度の向上で性能を高める
動作周波数の向上には、トランジスタのキャリア移動度の向上も大きく影響する。ひずみシリコン技術といったトランジスタのキャリア移動度を上げる手法が最先端のトランジスタには組み込まれている。
キャリア移動度の変化とイタレーションによって同じ動作周波数でも、消費電力を大幅に下げることができる。例えばキャリア移動度が標準値よりも30%高いときに動作周波数は1.2倍に向上するものの、消費電力も4%ほど増加する。これをイタレーションにより、増分をゼロにする。移動度を60%を上げることで動作周波数を1.4倍強に高め、消費電力を10%ほど下げられることを、講演では見せていた。
(次回に続く)
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