ムーアの法則、その行方を聞く:幾度となく覆される“終えん説”(2/3 ページ)
これまで何度となく“終えん説”が唱えられてきたムーアの法則だが、半導体業界は多大な労力でこの法則を維持している。今後、ムーアの法則はどうなっていくのか。業界のキーマンに、ムーアの法則の行方や、ムーアの法則の維持に関わる技術などについて話を聞いた。
FinFETとSOIは共存へ
3次元(3D) FinFETは、ムーアの法則をけん引する最先端技術の1つだ。その生みの親であるChenming Hu氏は、今でも、1969年当時にGordon Moore氏とのランチの席で仕事をオファーされ、それを断ったことを思い出すという。
「当時、台湾からの留学生だった私は、米University of California at Berkeley(カリフォルニア大学バークレー校)の大学院で学んでいた。私が受けていた授業の1つで教壇に立っていたのが、Intelの創業者の1人で元CEOであるAndy Grove氏だった。同氏の授業が終わるころ、大学の寮にいた私にAndy氏から電話がかかってきて、Intelの面接を受けるよう勧められた。また、Moore氏とRobert Noyce氏とのランチの席でも、Intelへの就職を勧められたが、私は両親の希望もあって博士課程に進むつもりだったため、その申し出を断ったのだ。
その後Hu氏は、順調にキャリアを積み、現在ではバークレー校の教授を務めている。同氏は、TSMCでチーフテクノロジストを務めた経歴も持つ。
Hu氏は、「ムーアの法則とは、挑戦すべき課題であり、自己成就的予言である。特に、微細化に取り組むエンジニアにとっては、エンジニアとしての創造力を示す証でもある。それを実現できる者は英雄であり、もっとその功績を認められるべきであろう。高い歩留まりを実現する微細化に取り組んでいるエンジニアは何万人も存在するので、いい考えとはいえないかもしれないが」と述べている。
1990年半ばに回路のシミュレーションが行われるようになると、トランジスタが微細化しすぎると、新たな問題が発生することが分かってきた。水漏れする蛇口のように、リーク電流が増大していったのだ。
Hu氏は、「CMOSのゲート長が0.1μmを下回るなど、誰も考えもしなかった。当時は、ナノメートル単位の計測すら採用されていなかった」と述べる。
米国防高等研究計画局(DARPA:Defense Advanced Research Project Agency)は1990年代、25nmプロセス以降のトランジスタの開発に向けたプログラムを開始した。Hu氏は1997年に2つのアイデアを提案し、その研究のための契約を獲得している。同氏は、その2年後に論文を発表し、UTB SOI(Ultra-Thin Body Silicon-on-Insulator)と新しい3D FinFETについて明らかにした。
当時、エンジニアたちが議論を重ねていたのは、UTBに不可欠とされる、シリコン層が5nmの薄膜SOIウエハーを十分に供給することが可能かどうかという点についてであった。
Hu氏は、「5nmという薄さは、2000年の時点で実現可能だとされていたサイズの1/20になる。ほとんどのメーカーが、SOIに取り組むことよりも、薄膜をエッチングするための技術を開発することの方が容易であるとの結論に至った」と付け加えた。
2015年現在、薄膜SOIウエハーの入手はもはや困難なものではなくなった。STMicroelectronics、Samsung Electronicsなどがこの技術を手掛けているが、より多くのメーカーはFinFETを採用し始めている。
Hu氏は、「半導体業界でFinFETの採用がどれだけ速く進むのかが気になっていたが、今は、SOIとFinFETは共存していくと思う」と述べている。
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