ARMから見た7nm CMOS時代のCPU設計(13)〜高移動度FinFETの期待と現実:福田昭のデバイス通信(24)(2/2 ページ)
FinFETの“延命策”として、チャンネルの材料をシリコンからゲルマニウム(Ge)やインジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)などに変更する方法がある。だが、ARMの講演では、この“延命策”に悲観的だった。今回は、Ge FETなどが抱える問題と、その打開策について紹介する。
ゲルマニウム・トランジスタではリーク電流が増大
ゲルマニウム(Ge)FETが抱える問題は、他にもある。リーク電流がシリコン(Si)FETに比べると高いことだ。リーク電流の要因の一つであるバンド間トンネリングでは、ゲート電圧が低い領域ではSiよりもGeのリークが大きい。待機時消費電力の制約が厳しいモバイル用CPUでは、Ge FETのリーク電流は無視できない。
トランジスタ間の特性ばらつき(オン電流のばらつき)は、Si FETと比べてGe FETが特に小さいわけではない。むしろ、ばらつきはSi FETよりもGe FETがやや大きい。この点も問題である。
左はトランジスタにおけるドレイン電流とゲート電圧の関係。左がSi FET、右がGe FET。バンド間トンネリングによるリーク電流を比較した。右はオン電流のばらつき。左がSi FET、右がGe FET(クリックで拡大) 出典:ARM
低ゲート電圧での解決策としてトンネルFETが浮上
そこで代替策として、従来とは異なる原理でトランジスタ電流をオン・オフするFETの研究が進められている。従来のMOSFETでは、ゲート電圧によるポテンシャルの変化を利用してソースからチャンネルに対して少数キャリア(nチャンネルMOSでは電子)を注入していた。
ポテンシャルの変化を利用したキャリア注入は、ゲート電圧が高いときは非常に上手く働く。しかしゲート電圧が低くなるとポテンシャルの変化がわずかになり、キャリアの注入が減る。すなわち、トランジスタ電流が低下する。
この問題の解決策として浮上したのが、ポテンシャルではなく、トンネル効果を利用してキャリアを注入するトランジスタである。トンネルFET(TFET)と呼ばれている。トンネルFETでは、低いゲート電圧でもドレイン電流が急峻に立ち上がる。
ゲート電圧が0Vから増加するときに、電流の立ち上がりの急峻さは「SS(Subthreshold Swing)」あるいは「S係数」と呼ぶ数値で示すことが多い。具体的には、電流が一桁増えるのに必要なゲート電圧の増加量(mV/dec)である。この値が低いほど、電流が急峻に立ち上がる。
ARMの講演では、従来のMOSFETのSSが63mV/decであるのに対し、トンネルFETのSSは25mV/decと低い。例えば0.25V〜0.3Vのゲート電圧で比較すると、トンネルFETのドレイン電流(単位長当たり)は、従来のMOSFETの約100倍にも達する。
(次回に続く)
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