「老人ホーム 4.0」がやって来る:江端さんのDIY奮闘記 EtherCATでホームセキュリティシステムを作る(3)(2/5 ページ)
私がEtherCATでホームセキュリティシステムを構築しなければならない切実な理由――それは「介護」です。自分の身を自分で介護する。そんな次世代の介護システム実現のために、EtherCATを利用できると考えたのです。後半では、PCベースでEtherCATスレーブを作る方法をご紹介します。
「老人ホーム4.0」の時代へ
先月のコラムで、私は「今の私には、大量のDIO(Digital Input/Output)をわが家の至る所に準備する、切実な理由があります」と記載しました。
その切実な理由とは「介護」です。
私の父と母は、ここ数年の間で、2人そろって、あれよ、あれよと言う間に、「歩けなく」なり、「食べられなく」なり、「思い出すことができなく」なりました。その間の出来事については割愛しますが、この「人が壊れていくプロセス」は、姉、嫁、子どもたち、そして私の体と心を、今なお破壊し続けています。
―― 時間軸方向に希望がない
今の父と母は、確定した未来の私です。
この問題を、人工知能や、介護ロボットや……(えっと、もう出てこない。他に何かあるんだっけ?)などで解決しようとする動きがありますが、私は難しいと思うのです。現在の介護現場が要求している仕様を満足できない上に、コストが見合わない ―― 人間の人件費に対して、ロボットの運用コストは驚くほど高い ―― からです。
加えて、介護問題を技術面からアプローチしている研究者たちは、自分の都合のよい介護の現場を想定して、フリーダムに好きな研究をやって、無意味な論文を量産しています。
例えば、『自分が飲んでいるクスリの数さえ認定できない認知症の人(例えば私の父)に、ウェアブルデバイスを装着させる』などという、あり得ない介護環境を「創り出し」ます。
そして、その環境下で、(使われるかどうか分からない)適当なシステムや装置を考案し製作し、恐ろしく少ない被験者から、山のようなデータを量産します。ゴチャゴチャとデータが記載されたその論文には、その装置を実現するために必要な市場規模や製品コスト試算すらないのです。
さらに、政府は、この程度の研究に対して、ろくな適用先も、実用化の目星もつけないまま、研究補助金をばらまいています。
―― お前ら、介護の現場、ナメてんのか
と、叫びたくなる衝動にかられます*)。
*)全ての介護研究が、このような「ナメた研究」というわけではありません(念のため)。
私は、この「希望のない確定した未来」から逃れられないまでも、せめて一矢報いたいと思うのです。
この連載で、私の提唱するコンセプトは、「Industrie4.0」ならぬ、
「老人ホーム4.0」
です。
Industrie4.0やIIC(Industrial Internet Consortium)で、IoTが、これからどう発展しようが、そんなことは私の知ったことではありません。
私のターゲットはあくまで「私」であり「ホーム」です。そして、ここで言う「老人ホーム」とは、私(老人)の自宅(ホーム)のことです。
これまで「機械でホームを守る」という意味で使われてきた「ホームセキュリティ」という用語を、「機械に(ホームの中の)私を守らせる」という意味にパラダイムシフトさせます。
私は、ここに、私の老後の人生のために、私の自宅の隅々に、私のために必要な介護アシスト機器を「自分で作り、自分だけのために動かす」ホームセキュリティシステムの検討を開始します。
―― もう、私は研究者も政府も当てにしない。自分の老後という闇を、自分の技術力だけで切り開くのだ ―― そう考えた時、これ(EtherCAT)は「使える」と思ったのです。
既に私は、自宅でイーサネットケーブルを、窓から窓に渡し、庭に溝を掘って張り巡らせています(壁の中にLAN配線をするとか、コストのかかることを考えたら負けです。ケーブルは、切れたらまた張り直せばいいのです)。
あとは、メイド(EtherCATスレーブ)を設置さえすれば、家中どこにでもDIOポートがあるという環境が実現できます。
そうすると、移動椅子が私を運び、ロボットが私にご飯を食べさせ、パワードスーツが自動的に私に装着されて私を外に連れ出してくれるという、私の考える「老人ホーム4.0」のインフラは整うのです。
そのためにも、できるだけ早いとこ世間を巻き込んで、EtherCATをはやらせておかなければ――。そして、EtherCATスレーブの劇的なコストダウン(数万円→数百円)を、あと10年以内(私の退職まで)に実現しておかなければ――。
私には時間がないのです。
本を読めば目がかすみ、走れば腱を切り、歩いているだけで突然ギックリ腰が襲う。これが、「中年」というものです。
定年後に着手したのでは遅いのです。もう、私は「老人ホーム4.0」の具体的な設計を開始し、システム構築を完了させなければなりません。
私専用の介護ロボットを、自ら動かさなければならない、その日までに――。
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