フルSiCモジュールが小田急1000形の心臓部を約40%省エネに:パワーデバイス SiC
三菱電機は、フルSiCモジュールを用いたインバータ装置が、鉄道車両の主回路システムを約40%省エネ化させることを営業運転中の車両を用いて確認した。
営業車両でのフルSiC実証「世界初」
三菱電機は2015年6月、フルSiCパワーモジュールを使ったVVVF(可変電圧可変周波数制御)方式インバータを営業運転中の鉄道車両に搭載して実証実験を行った結果、鉄道車両の主回路システム全体で従来比約40%の省エネ効果を確認したと発表した。
実証実験は、営業運転中の小田急電鉄1000形リニューアル車を使用。高効率全閉形誘導電動機、低損失のフィルタリアクトルなどで構成する主回路システムのインバータ装置に、フルSiCパワーモジュールを使ったVVVFインバータ(2レベル/PWM方式)を搭載。約4カ月にわたり、その消費電力量および電力回生率を検証。シリコン(Si)によるゲートターンオフサイリスタ(GTO)ベースのインバータを積む従来車両との比較を行った。
その結果、フルSiCを適用したリニューアル車は、Si-GTO適用従来車両と比べて、
- 加速時の力行電力量が約17%減少
- 電車の走行に使用した電力量に対する、減速時の電力回生ブレーキで架線に戻した回生電力量の比率である電力回生率が従来システムの34.1%から52.1%に向上
といったことを確認。主回路システム全体として「約40%の省エネ効果を実証した」(三菱電機)。
三菱電機によると、ダイオード、スイッチング素子双方にSiCデバイスを使ったフルSiCモジュールによるインバータを用いた営業運転中の鉄道車両での省エネ実証は「世界初」としている。実証に用いた主回路システムは、入力電圧は直流1500Vで、制御方式は「190kWモーター4台×4台並列制御×2群」とし、冷却方式は走行風自冷方式を採用した。
鉄道車両でのSiC応用広がる
次世代パワー半導体であるSiCデバイスは、鉄道車両での採用が進んでいる。2015年秋頃にJR東日本 山手線で営業運転を開始する予定の新型車両「E235系」で採用される他、既に営業運転を開始している東京メトロ銀座線1000系車両などでSiCダイオードを用いたインバータが使用されている。
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