高分子太陽電池の変換効率を約3割向上:せっけんの構造に近い近赤外色素を開発(2/2 ページ)
京都大学の大北英生准教授らによる研究グループは、高分子太陽電池の変換効率を従来に比べて約3割向上させることに成功した。せっけんの構造に近い近赤外色素を開発し、その導入量を高濃度にすることで実現した。
最適導入量が重量比15%まで増加
研究グループは、ドナー高分子にP3HT、アクセプターにフラーレン誘導体(PCBM)、近赤外色素にシリコンフタロシアニン誘導体(SiPc)を用いた三元ブレンド高分子太陽電池の発電特性を調べた。この結果、SiPc6やSiPcBzといったホモ構造の色素では、従来と同じく重量比で5%が最適導入量となり、二元ブレンド素子と比較して電流増加は約1割にとどまった。これに対して、ヘテロ構造の色素であるSiPcBz6を用いると、最適導入量が重量比15%まで増加し、二元ブレンド素子と比べて電流は約3割増加することが分かった。この結果、二元ブレンド素子に比べて、変換効率を約3割向上させることに成功した。
合成方法を見直し
今回の研究では、ヘテロ構造の色素を開発するための合成方法を見直したことが大きなカギとなった。具体的には、メチルキャップした1官能性シリコンフタロシアニンを出発原料とし、ヘキシル基を軸配位子として導入。その後、UV照射によりメチル基を脱離しベンジル基を軸配位子として導入することで、ヘテロ構造の近赤外色素を合成することに成功した。
今回の研究成果は、高分子太陽電池の変換効率を高める技術として注目される。吸収帯域の異なる色素を同時に導入した多元ブレンドへと拡張することによって、さらなる効率の向上が見込まれている。最終的には単セル素子で変換効率が15%を超える高分子太陽電池の実用化をターゲットにしており、そのための有力な技術の1つとみられる。
なお、本研究成果は2015年8月27日(英国時間)に、ドイツ科学誌「Advanced Materials」オンライン速報版で公開された。
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