次世代パワー半導体ではシミュレータが不可欠に:SiC/GaNだけでなく新世代パワーMOSFETでも(1/2 ページ)
SiC/GaNを用いた次世代パワー半導体を使うパワーエレクトロニクスの設計において、シミュレータを使うという新しい動きがある。これまでは“ノウハウ”で乗り切れていたが、次世代パワー半導体ではノイズなど無視できない問題が顕著になってきたからだ。
Si(シリコン)の代わりにSiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)を使う次世代パワー半導体。市場としてはまだ小さいものの、さまざまな分野で採用あるいは採用の検討が始まっている。鉄道業界では、JR東海が東海道新幹線向けにSiCモジュールの採用を検討するなど、特に積極的な動きがみられる*)。この他、自動車や産業機器の分野でも導入が進む見込みだ。
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特にSiCでは、これまでは、SiCという材料の特性を十分に引き出せるチップの設計が開発の主要目的*)だったが、現在はそのチップをいかに実装するかということに力点がシフトしている。
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キーサイト・テクノロジー(以下、キーサイト)によると、次世代パワー半導体を用いたインバータなど、パワーエレクトロニクス分野において重要になっているのがシミュレータの存在だという。次世代パワー半導体では、高速動作によって信号の立ち上がりが急峻になる。すると、無視できなくなってくるのがノイズの存在だ。さらに、突入電流やサージ電圧、大電流を扱うものであれば熱なども問題になってくる。これらの課題に対応するために、シミュレータを使った事前検証が必要になるのである。
シミュレータを使うという発想が根付いていない
高速デジタル信号など高周波を扱う分野では、シミュレータを使った検証は当たり前のように行われている。だが、パワーエレクトロニクス分野では、安価なシミュレータが一部で使われているケースもあるが、そもそも“シミュレータを使う”という発想自体がまだ根付いていない。キーサイトは、「例えば、インバータの制御用に使われるパワーMOSFETでは、これまでは信号の立ち上がりがそれほど速くはなかった。そのため、回路設計技術である程度カバーできていた」と説明する。
だが、SiC/GaNを用いたパワー半導体だけでなく、新世代のパワーMOSFETすら、高性能になったことで信号の立ち上がりが速くなり、設計者が扱いきれなくなってきているのが現状だ。
基板設計では、インダクタンスと容量をできるだけ抑えることが必要になる。実は、基板設計に関しても、これまではノウハウで何とかなってきた部分があった。だが、パワー半導体が高性能化するにつれて、ノウハウだけでは乗り切れなくなってきている。「現在は、インダクタンスを本当に小さく抑える必要にかられており、“正確なインダクタンスの値”を見なくてはならない」(キーサイト)。毎回チップを試作して測定するのは現実的ではないので、シミュレータを使って基板特性を出す、ということを一部の設計者が既に始めている。
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