鋼のように丈夫で薄い高弾性ガラス、東大が開発:落としても割れないスマホができる?
東京大学生産技術研究所の助教を務める増野敦信氏らの研究チームは、無色透明でヤング率が160GPaという高弾性率ガラスの開発に成功した。薄くて丈夫な新素材として、電子回路基板、各種カバーガラスなどへの応用が期待される。
東京大学生産技術研究所の助教を務める増野敦信氏らの研究チームは2015年10月、無色透明でヤング率が160Gpaという高弾性率ガラスの開発に成功したことを発表した。薄くて丈夫な新素材として、電子回路基板、各種カバーガラス、建築材料などへの応用が期待される。
今回の開発は、増野氏の他、東京大学大学院工学系研究科の博士工程学生であるロサレス グスタボ氏、高輝度光科学研究センターの研究員である肥後祐司氏らによる研究チームが行った。研究チームは、ガラス合成法として無容器法を用いた。無容器状態はガス浮遊炉を用いて実現している。無容器法は、ガラスになりにくい組成でも比較的容易にガラス化することができる方法である。
無容器法を採用することで、これまではガラスにならないと思われてきた酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化タンタル(Ta2O5)のみの組成で、ガラス(54Al2O3・46Ta2O5)合成に成功した。酸化アルミニウムと酸化タンタルの組成比率をほぼ1対1とすることで、無色透明なガラスにすることができたという。
開発したガラスを測定/解析したところ、弾性率を示す指標の1つであるヤング率は160GPaに達していることが分かった。典型的な酸化物ガラスのヤング率は80GPa程度であり、酸化物ガラスの中では最も大きい値になったという。また、鋳鉄でも152GPa、鋼は200GPa程度であり、今回開発したガラスの弾性率は、鋼に近い特性を示した。
また、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いてAlとTa原子の分散状態を、核磁気共鳴(NMR)を用いてAl原子核の局所環境を、それぞれ確認した。この結果、AlとTaが原子レベルで均一に分散していること、酸素配置数が5であるAl原子の比率が非常に多いことが分かった。これらの解析結果から、ガラスの充填密度が極めて高くなり、弾性率が大きくなることを突き止めた。
開発したガラスでみられるAlやTaの振る舞いは、これまでの一般的なガラス形成則からは逸脱しているという。このため研究グループでは、Al原子周囲の特異な局所構造が、Ta元素によってもたらされた、ということを研究論文で提案した。研究グループでは、従来の常識では考えられないような革新的機能を備えたガラスが、3〜5年後にはカバーガラスなどの用途で製品化される可能性もある、とみている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 3Dプリンタで100nmオーダーの加工が可能に? エバネッセント光を使う微細加工
東京大学 先端科学技術研究センターの高橋研究室は、100nmオーダーの分解能で高速に3次元造形を行う技術開発に取り組んでいる。樹脂の硬化にエバネッセント光を使うことで、このような分解能の実現が可能だという。 - 赤い微生物「ジオバクター」の燃料電池、廃水処理システムを変える?
赤い微生物「ジオバクター」を使用した燃料電池(MFC:Microbial Fuel Cell)による廃水処理技術の開発が進んでいる。廃水中にふくまれる有機物を、電気に変換しながら分解することで、大幅な省エネを実現する上に、汚泥の発生も最小限にする仕組みだ。2015年6月5日〜6日に行われた「東大駒場リサーチキャンパス」において、同技術の取り組みについて聞いた。 - 量子テレポーテーションの心臓部をチップ化――量子コンピュータ実用化へ「画期的成果」
東京大学の古澤明教授らの研究グループは、量子テレポーテーション装置の心臓部となる「量子もつれ生成・検出部分」を光チップで実現することに成功した。量子テレポーテーションの手法を用いて量子コンピュータを実現できることを示した。 - ロービジョンケア向け網膜走査型アイウェアを1年後に商品化へ
QDレーザと東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構は2015年3月2日、目が見えにくい人への介護/支援に用いる「ロービジョンケア」に向けた網膜走査型レーザーアイウェアのプロトタイプを開発したと発表した。今後、教育機関などと連携して検証を行い、2016年3月までに商品化する。