シリコンバレーで“金の卵”を探す中国:上海企業がインキュベータを開設(1/2 ページ)
中国が、More than Moore(モアザンムーア)を求めて、ハードウェア分野での新興企業や事業拡大を支援する組織(インキュベータ)を開設した。潜在能力を秘めた新興企業に、よりアクセスしやすくすることが狙いだ。
「More than Moore(モアザンムーア)*)」と呼ばれる革新的な技術が世界的に求められる中、中国・上海政府が支援するShanghai Industrial Technology Research Institute(SITRI)は、米国カリフォルニア州のシリコンバレーでハードウェア分野での起業や事業拡大を支援する組織(インキュベータ)を開設した。
*)アナログ回路やRF回路、MEMS(Micro Electro Mechanical System)など、デジタル回路以外もCMOS回路に集積して、機能を追加していくこと。これに対し、「ムーアの法則」をさらに続けていくことを「More Moore(モアムーア)」と呼ぶ。
SITRIは先ごろ、計画・建設の段階から携わってきた「SITRI Innovations」と呼ぶ起業支援組織の運営を開始した。SITRI Innovationsは、More than Moore技術を適用したデバイスの開発や商用化を目指すハートウェア起業家を支援する。
SITRIのこの取り組みは、中国による“シリコンバレーの頭脳の搾取”を目的としているのではない。SITRI Innovationsのプロモーターには、「MEMSの父」として業界に広く知られるKurt Petersen氏が名を連ねている。同氏は現在、SITRIの諮問委員会のメンバーである。同氏はSITRIの取り組みを通じて、ハードウェア分野でのベンチャーキャピタルの投資を再び活性化させたい考えだ。
SITRIの目的は、CMOS技術を超える技術を見いだすことだ。CMOS技術は、数十年にわたりIC技術の主役として、PC/スマートフォン市場の成長を支えてきた。プロセスノードの微細化も、ムーアの法則に沿って進んできたが、物理的な限界も近づいている。
SITRIは、次世代の革新的な半導体技術の中でも特に斬新なアイデアを探している。同社は、「具体的には、MEMSやセンサー、オプトエレクトロニクス、RF、生物学、マイクロエネルギーなど、CMOSプロセスの微細化に依存しない技術だ」と説明している。
シリコンバレーと中国の懸け橋に
SITRI InnovationsとSITRI Venturesのゼネラルマネジャーを務めるPeter Himes氏は、「SITRIは、シリコンバレーの新興企業と中国のサプライチェーンや市場を結びつけることで、More than Moore技術のエコシステムやインフラ整備を支援したいと考えている」と述べた。
Himes氏は、「More than Mooreが必要とするイノベーションは、シリコンバレーから発信されている。われわれは、スタートアップ企業が事業を軌道に乗せるための支援を行いたいと考えている」と述べている。
同氏は、「ベンチャーキャピタルはウェアラブルやクラウドサービス、解析などの分野に投資しているが、半導体や将来のイノベーションにつながるハードウェアには新たな投資を行っていない。起業家の市場参入を促進する支援を行うことで、ベンチャーキャピタルの資金援助を受けるチャンスを拡大したいと考えている」とも述べている。
Petersen氏は、新興企業6社を共同設立し、そのうち4社を成功させた経歴を持つ。同氏はEE Timesに対して、「私は、MEMSを手掛けるスタートアップ企業や、彼らが抱えている問題に通じている」と語った。
同氏は、「前回の経済恐慌以降、ベンチャーキャピタルによる半導体スタートアップに対する資金提供は完全に停止してしまった。われわれのようなエンジェル投資家(個人投資家)は、それを補てんするための取り組みに注力している」と述べている。
さらに、SITRIは、MEMSの製造工場も建設中だ。Himes氏が2015年初頭にEE Timesに対して語ったところによると、同工場はMEMSに限らず、III-V族半導体やRF-SOI(Silicon on Insulator)、圧電素子、磁気材料などのパイロット品の製造も可能だという。
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