「A9」に秘められたAppleの狙い(前編):Aシリーズの設計で差別化できているのか(1/2 ページ)
「iPhone」向けのプロセッサはかつて、「Appleは、他社の市販のプロセッサに切り替えるべき」だといわれたこともあった。だが今、「Aシリーズ」の性能は一定の評価を得ている。
「iPhone 6s」と「iPhone 6s Plus」に搭載されているアプリケーションプロセッサ「A9」。FinFETプロセスで製造された、第6世代のこのプロセッサには、Appleの半導体設計開発に対する強い野心が秘められているのではないだろうか。
2010年に発表された第1世代の「A4」は、競合するSamsung Electronicsのプロセッサと同等の性能を備えていた。しかしその後、「A6」プロセッサは、Appleが独自開発したCPUを備え、非常に優れたプロセッサとして広く認められるようになった。
さらに「A7」プロセッサの登場により、Aシリーズファミリは64ビットコンピューティングへと移行する。A7では、“A7X”が作られなかったこともあり、非常に興味深い設計決定が行われている。A7は、「iPad Air」および「iPhone 5s」向けのシングルプロセッサとして開発されたが、これら2機種に関しては、画素数に4倍の差がある上、iPhone 5sには指紋認証機能(「Touch ID」)が搭載されていてiPad Airには搭載されていないという違いもある。
製造面についてみてみると、初代A4には45nmプロセスが適用されていたが、A9は14nm/16nmという2種類のプロセスを適用している。
Aシリーズの設計で差別化できているのか
Aシリーズファミリはこれまで、どの世代品についても、懐疑的な見方をされる場合が多かった。「Appleは、Intelの『Atom』や、他の市販のプロセッサなどに切り替えるべきだ」とする声が挙がった他、カナダの投資銀行であるRBC Capital Marketsのアナリストが、「もしAppleが、iPad向けとしてIntelプロセッサを採用する方向に動けば、IntelがAシリーズの製造を手掛ける可能性もある」と推測したこともある。
しかし、ここで本当に問題なのは、Appleが、Aシリーズプロセッサの設計に取り組むことによって、自社の最終製品を差別化できる方向へと進んでいるのかどうかという点ではないだろうか。
これは、かつて、故スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏が、組み込み向けプロセッサベンダーのP.A. Semiを買収するにあたって明言した目標である。興味深いことに、先日発表されたリポートによると、Googleが、ある半導体メーカーとの間で、より密接な協業関係の構築に向けて話し合いを進めているという。
このような問題に対する答えは、既に明らかになっているのだろうか。ここで、A9プロセッサについて詳しく見ていきたい。
Appleの経営幹部たちは、2015年9月9日(米国時間)に開催された「Apple Special Event」において、A9がいかに素晴らしいかを非常に興奮した様子で語った。また、技術的な詳細情報についても、明らかに以前よりも多くを発表している。
例えば、筐体に高強度の7000番台アルミニウム合金を採用したことや、ディスプレイ用ガラスの製造にイオン交換処理を行ったこと、カメラのイメージセンサーの画素にディープトレンチアイソレーション(DTI:Deep Trench Isolation)技術を適用したことなどが挙げられる。筆者が以前に別の記事の中でも指摘したように、A9はこれまでのどの世代品よりも大きな注目を集めているのではないだろうか。単なる動作周波数やコア数などについてではなく、「性能」と「統合」という言葉が繰り返し強調されているためだ。
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