「A9」に秘められたAppleの狙い(前編):Aシリーズの設計で差別化できているのか(2/2 ページ)
「iPhone」向けのプロセッサはかつて、「Appleは、他社の市販のプロセッサに切り替えるべき」だといわれたこともあった。だが今、「Aシリーズ」の性能は一定の評価を得ている。
Appleのマーケット担当を務めるPhil Schiller氏は同イベントの基調講演で、「A9」と「A8」や他のAシリーズとの性能の違いについて説明した。その際に使われたのが、われわれが初めて耳にした「デスクトップクラス」と「コンソールクラス」という表現だ。
同氏は、64ビットCPUや新しいトランジスタ構造の他、“現実的な用途に合わせて最適化”したことなど、A9の詳細についても説明した。64ビットCPUは驚くようなことではない。
新しいトランジスタ構造はFinFETトランジスタを採用したという意味だと考えられる。実際に、A9/A9Xの製造を受注するTSMCとSamsung Electronicsはいずれも、FinFETを採用していることが確認されている。下の画像は、TSMCが製造したA9の断面図である。
ここで、“現実的な用途に合わせた最適化”とは何を意味するのだろうか。Phil氏は、「ソフトウェアと半導体の設計者が協力して、日常的なタスクに対する性能を最大化した」と説明した。筆者はこの説明を聞いて、「A5」が発表された当時に書いた記事を思い出した。タスクを最も早く処理するには、そのタスクをトランジスタレベルでハードウェアに実装すればよい。
ソフトウェアに実装することで得られるフレキシビリティは失われるが、処理速度は向上する。Appleは、当面必要とされるルーチンが何であるかを把握した上で、ハードウェア/OSスタックを調整している。このうち一部の処理は、回路に込みこまれる可能性もある。
この手法は、Phil氏のコメントと通じる部分が多いように思える。スタックを調整することで、付加価値的なメリットが得られることは事実だ。ただし、それを実証するには、リバースエンジニアリングを手掛ける企業に解析を依頼するしかないだろう。筆者は先日、Googleのチップ開発計画に関する記事を発表したが、GoogleにもAppleの“現実的な用途に合わせた最適化”に通じる意図があるのではないだろうか。
トランジスタ/基板レベルのダイの画像を紹介
A9が初めて紹介されたのは、2015年9月9日のイベントだった。基調講演では下の画像がスライド表示された。
主要ブロックの一部に簡単な注釈が付けられているが、画像は不鮮明で、ダイの境界線もはっきりしない。しかし、注目すべきは、紹介されたのがトランジスタ/基板レベルのダイの画像だったことである。Appleが、配線も完了した完成形のダイではなく、この画像を選んだのは、A9の基本構造を紹介したいという意図があったからだ。画像では、デュアルコアCPUや6コアGPU、2つの大きなメモリーブロック、モーションコプロセッサ「M9」などが見て取れる。
(後編に続く)
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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