二層グラフェンでバレー流の生成/検出に成功:消費電力のない情報媒体の実現へ(2/2 ページ)
東京大学の大学院工学系研究科の研究グループは2015年11月、電気的に反転対称性を破った二層グラフェンにおいて、バレー流の生成/検出に初めて成功したと発表した。
原理的には室温動作も可能
今回の研究は、上下ペアの電極を用いることで二層グラフェンの電子密度を制御すると同時に、垂直電場を制御。この系でバレーホール効果によりバレー流を電気的に生成し、電流の漏れ出しの寄与を無視できる3.5μmの長距離にわたり伝送した後、逆バレーホール効果によりバレー流を電圧に変換することで検出したという。
同研究グループは、検出した電圧と注入した電流の比を非局所抵抗として、バレー流の伝送の指標として評価。垂直電場で反転対称性を破ったときに、巨大な非局所抵抗が出現することを発見したとしている。
バレー流を介した輸送の場合、非局所抵抗は抵抗率の3乗に比例することが予想される。研究では、垂直電場により抵抗率を変調した際に(温度約−203℃)、3乗の関係が観測され、非局所抵抗がバレー流を介した輸送に起因することを実証している。
同研究グループは、「今回は、ゲート絶縁層を破壊しない程度の大きさで垂直電場を制限したため、室温での動作は実証できていない。しかし、加える垂直電場を増大すれば変換効率はさらに向上し、原理的には室温での動作が可能になる」と語る。バレー流を生成するときに流れる電流のエネルギー消費も、変換効率の向上で改善できると考えられ、低消費電力エレクトロニクスの実現が期待されるとしている。
なお、同研究は理化学研究所の創発物性科学研究センター、物質・材料研究機構の先端的共通技術部門 先端材料プロセスユニット 超高圧グループ、同機構の環境・エネルギー材料部門 光・電子材料ユニット 光・電子機能グループが共同で実施している。
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