電圧トルクMRAMの安定動作を実証、評価法も開発:究極の省電力メモリ実現に道筋(1/2 ページ)
産業技術総合研究所の塩田陽一研究員は、電圧書込み方式不揮発性メモリが安定動作することを実証するとともに、書込みエラー率の評価方法を開発した。電圧トルクMRAMの実用化に向けた研究に弾みがつくものとみられる。
産業技術総合研究所(産総研) スピントロニクス研究センター電圧スピントロニクスチームの塩田陽一研究員は2015年12月、電圧書込み方式不揮発性メモリが安定動作することを実証するとともに、書込みエラー率の評価方法を開発したと発表した。この成果により電圧書込み型磁気メモリ「電圧トルクMRAM」の実現に向けた研究に弾みがつくとみられている。
産総研はこれまで、大阪大学 大学院基礎工学研究科の鈴木義茂教授らと協力して、厚さ数原子層程度の金属磁石薄膜に電圧を印加し、磁化の向きやすい方向(磁気異方性)を制御する技術の開発に取り組んできた。この技術を応用した電圧トルクMRAMは、基礎研究の段階にある。極めて電力消費が小さいこのメモリを実用化するためには、書き込みエラー率を10‐10〜10‐15以下に抑える必要がある。ところが、これまで電圧書込み方式の書込みエラー率について評価した事例はなく、メモリとして安定動作するかどうかも解明されていないという。
電圧トルクMRAMの動作原理は、電圧を印加していない状態で、磁化は磁気エネルギーの低い方向に向き、上向き(左図:メモリの「0」状態に対応)または、下向き(右図:メモリの「1」状態に対応)となって安定する。この状態で超高速の電圧パルスを印加すると、瞬間的に磁気異方性が変化して、記録層の磁化が回転し始める(中央)。磁化が初期状態と反対向きになった時点で電圧をオフにすると、磁化の回転が止まって固定され、メモリの書込みが行われる。
産総研は今回の研究で、ギガビット級の大容量メモリに用いることができる垂直磁化型の磁気トンネル接合素子(MTJ素子)を用い、ナノ秒程度の電圧パルスを印加して書込みエラー率の評価を行った。評価に用いた素子は直径120nmの円柱状で、記録層に1.8nmの鉄ボロン合金からなる磁石層を用いた。素子には絶縁層の酸化マグネシウム層を介して電圧を印加し、その際に生じる電気抵抗の変化を測定することで、磁化反転の「成功/失敗」を判定した。この書込み動作を10万回繰り返し実施し、書込みエラー率を評価した。
今回の実験により、書込みエラー率と電圧印加時間(電圧パルスをかけた時間)との関係を明らかにした。その結果、磁化が半回転する時間だけ電圧を印加すると、効率よく磁化が反転することが分かった。また、実験では4×10‐3という低い書き込みエラー率を達成した。この実測データは、磁気摩擦定数を0.1と仮定した計算機シミュレーション結果と、ほぼ一致しているという。
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