ダイエットを“過渡現象”で説明できるか:世界を「数字」で回してみよう(24) ダイエット(4/5 ページ)
前編に続き、今度は、ダイエットにおける体重の増減をエンジニア視点で分析してみたいと思います。そして、ひと月に及ぶ壮絶な体重シミュレーションを繰り返した私は、ある結論にたどりついたのです……。
気を取り直して再検討
でも、『失敗したなら失敗したで、やることもある』と、気を取りなおして、データの再検討に入りました。
敗因は、「完全体重」でした。
それは、
- 胃、小腸、大腸などの消化器系に、米の一粒、肉の一片も残らず完全に消化しきっており、
- 大腸や膀胱に、排せつ物が1gも残っておらず、
- 血液中の水分が常に平均状態である
という、今回のシミュレーションのためだけにモデル化した体重のことです*)。
*)経済学の研究において、市場環境を簡素化するために使われる「完全市場」と同じ位置付けです。
負け惜しみではないのですが、実際のところ、体重の計測値というのは、結構な誤差が混入しているのです。
食事中の方には申し訳ありませんが、私の持っている「裏データ」には以下のようなものがあります。
私は、こういう要因をできるだけ排除するため、体重を計測する時は、「起床後、トイレに行った後、朝食を食べる前」というルールを自分に徹底していました。
しかし、出社直前や出勤中に「もよおして」て「トイレにかけこむ」こともありましたし、週末、睡眠時間が長くなるほど、体重が減りやすいという傾向もありました(原因不明)。
さらに、「食料そのものの重さ」の問題もあります。例えば、吉野家の牛丼(並盛り)は、重さが815gありますが、カロリーは666kcalなので、そのカロリーが100%体重になると仮定しても、95g(=666kcal/7kcal)にしかなりません。つまり、その牛丼の重さは、体重計に乗った時刻によって、0g(エネルギーとして完全に消費)から815gまでの、どの値でも計測され得るのです。
結局のところ、私がどんなに頑張っても、「真の体重」なるものを計測することはできないのです。
私は、期せずして、「ダイエット」からハイゼンベルグの不確定性原理に、到達してしまったのです(違うか)。
いずれにしても、上記の「ウンコ」「おしっこ」「寝汗」「吉野家の牛丼」までをも組み込んだ、「超複雑シミュレータ」を作ることは、私にはできそうにありません。
それと、もう1つ。
今回の、伝搬モデルを使った計算で、今回、毎日食べる食事の量(カロリー)の一部を、乱数で振ってみたのですが(イメージとしては、毎日、生卵とコロッケを1個、加えたり、減らしたりする程度のカロリー)、たったそれだけの事で、短期の体重の変動は、驚くほど簡単に、かつ劇的に変わってしまうこともご報告しておきます(バタフライ効果)。
つまり、短期間(数日〜1週間)の体重予測は、想像以上に難しい(あるいは不可能)ということです。
ここから導かれる1つの考察は、
- 毎日の体重変動に、一喜一憂する必要はない
- 長期の体重変化をきちんと記録しない限り、ダイエットの効果を測ることはできない
ということになります。
では、今回の内容を、前後半併せてまとめたいと思います。
【1】「ダイエット」と「リバウンド」の間に関係はない
【2】ただし、「ダイエット」後の体重増加は目立たないため、「もう太らなくなった」という誤解(願望)が発生し、体重管理がおろそかになり、その結果として「リバウンド」のように見える状況が発生しやすくなっている可能性はある。
【3】ダイエット後に増えてしまった体重は、元の食事に戻しても、すぐには元の体重には戻らない(5年間もかかることもある)。せっかく痩せたのであれば、石にかじりついてでも、今の体重を死守すべきである
【4】日々の体重の変化には、(本当に)訳が分からないものが多い。それゆえ、毎日、体重計の上で、一喜一憂する必要はない。また、長期の体重変化をきちんと記録しない限り、ダイエットの効果を測ることはできない
【5】結果として、江端は、短期間(数日〜1週間)の体重予測のモデル化に失敗した。この夏から準備した計算ツールの導入や、ここ一月にも及ぶ検討と計算は全てパーとなった。その言い訳として「ウンコ」や「おしっこ」の重さを持ち出して、何とか体面を保とうとしている
以上です。
私は、今、計算用紙の海の中で疲れ果てています。
今は、そっとしておいてやってください。
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