人間の脳が握る、デバイス低消費電力化の鍵:IBMが語る、ウェアラブル向け最先端技術(1/2 ページ)
ウェアラブル機器に欠かせない要件の1つに、低消費電力がある。「第2回 ウェアラブルEXPO」のセミナーに登壇した日本IBMは、超低消費電力のコンピュータとして、人間の”脳”を挙げ、IBMが開発中の「超低消費電力脳型デバイス」について語った。
日本アイ・ビー・エム(日本IBM) 東京基礎研究所 サイエンス&テクノロジー部長を務める折井靖光氏は、「第2回 ウェアラブルEXPO」(2016年1月13〜15日)で開催されたセミナーに登壇し、IBMの人工知能「Watson」や、同社が開発中の「超低消費電力脳型デバイス」などを紹介した。
折井氏が登壇したのは、「ウェアラブルの進化を支える最先端技術」と題したセミナーである。同氏は、まず「ウェアラブル機器の鍵となるのは、どれだけ低消費電力のデバイスを作れるかだ」と述べ、ウェアラブル機器を語る上では欠かせない、1)ビッグデータの処理、2)デバイスの小型化および超低消費電力化の観点から、IBMの取り組みを紹介した。
「Watson」の活用を進める
ウェアラブル機器を含むIoT(モノのインターネット)機器の増加により、膨大な量のデータが生成されている。折井氏は、「全世界で生み出されるデジタル情報の総量は、2012年には3ゼタバイトだったが、2020年には44ゼタバイトまで膨れ上がるとされている。これは、500億本分の映画に相当するデータ量。見るのに1400万年かかる」と語る。
とはいえ、24時間365日データを取り続けたとしても、本当に必要なデータは、その中のほんのわずかな量でしかない場合も多い。折井氏は、「センサー側(エッジ側)に知能を持たせて、本当に必要なデータのみをクラウドにアップする、いわゆるエッジコンピューティングの考え方が進んでいる。クラウド関連の技術は欧米が進んでいるが、エッジ側は、小型で高性能なセンサーを作る技術を持っている日本が最も得意とするところだ」と説明した。
だが、クラウドにアップするデータをどれだけ絞ったとしても、データ量が膨大だということは変わらない。「そのため、ビッグデータをいかに活用するかも鍵になってくる」(折井氏)。そこで注目されているものの1つが、IBMの人工知能*)「Watson(ワトソン)」だ。
*)IBMでは、Watsonを“人工知能”とは呼ばずに、コグニティブ・コンピューティングと呼んでいるという。「”人工知能”という言葉はSF(サイエンスフィクション)色が強く、IBMが人工知能を作って人間を支配してしまうのではないか、という印象を与えるから」(折井氏)だそうだ。
Watsonが、2011年に米国のクイズ番組「Jeopardy!」に挑戦し、人間のチャンピオンに勝利したことは有名な話である。
Watsonをビッグデータの解析に活用する取り組みは、さまざまな分野に広がっている。その一例が医療分野だ。膨大な量の論文や文献などをWatsonに読み込ませ、医師の診断を手助けするのである。折井氏がセミナーで見せた動画では、Watsonが、ある患者のさまざまな症状から「ライム病ではないか」という診断を医師にオファーしていた。
2016年1月には、ソフトバンクロボティクスとIBMが、ソフトバンクのロボット「Pepper」向けのWatsonを開発中だと発表した*)。ソーシャルメディアやビデオ、画像といった、従来のコンピュータでは十分に活用しにくい、非構造化データなどに隠された意味を、Watson搭載のPepperが見つけ出せるようにすることが狙いだという。
*)MONOist:「Pepperが「データの意味を理解する」、Watsonで」
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