印刷によるセンサー付き電子タグ 商用化へ前進:有機半導体でコスト1/10以下に(2/2 ページ)
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2016年1月25日、商用ICカード規格のスピードで動作する有機半導体を用いた温度センシング回路を開発したと発表した。印刷/塗布だけで製造できる回路であり、温度管理が必要な食品などに用いる温度センサー付き電子タグを低コストで製造できる。
NFC対応の動作速度を実現
今回発表した電子タグは、物流分野で必要な「低い/正常/高い」の3段階の温度情報を検出、送信できる2ビット分解能の温度検出機能を備えながら、NFCなどの規格に準じるために必要な動作周波数26.5kHzの高速動作に対応させたものだ。
東京大学新領域創成科学研究科教授の竹谷純一氏は「過去1年間で、製造の精度を高めることで、以前はまれに計測できていたキャリア移動度16cm2/Vsを、高頻度で達成できるようになり、高速動作と素子の小型化を実現できた」とする。
1年前の電子タグは、10×20mm程度のチップに100個程度のトランジスタの集積にとどまったが、今回の電子タグは、300〜400個のトランジスタを集積。温度検出用A-Dコンバータの分解能を1ビットから2ビットに高めた他、デジタルデータ処理能力も従来の4ビットから8ビット(3ビットD-フリップフロップ)に拡張し、高機能化させた。
“フル・フィルム”を達成
また、今回の大きな開発成果としては、従来、デジタル回路部などの一部で残ったガラス基板の使用をやめ、全てフィルム基板上に回路やアンテナを形成することに成功した。竹谷氏は「回路部は現状、高価なポリイミドフィルムを使用しているが、100℃以下で回路形成できるため将来的には(より安価な)PET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)にも形成できる見込みだ」との見通しを語る。
さらに高集積化し、メモリ搭載も
東京大学、トッパン・フォームズなどでは、有機半導体による電子タグを2018年に商用化する目標を掲げる。
商用化に向けた課題について竹谷氏は「現状、10×20mm程度のチップサイズを、製造の精度を高めるなどし5mm角程度まで小さくしたい。また、素子レベルで実現している有機半導体/有機強誘電体を使った印刷可能なメモリを、メモリアレイとし、実装する必要がある。今後、1年でメモリを搭載したより高集積な電子タグを実現したい」とした。
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