数字が暴く! “らくらくダイエット”の大ウソ:世界を「数字」で回してみよう ダイエット(26)(5/5 ページ)
今回は、私が連載当初から掲げてきたテーゼ「人類は、ダイエットに失敗するようにできている」を、目に見える形(=シミュレーション)で示します。前半では、このシミュレーションに使うパラメータを作るべく、ダイエットの苦痛を“定量化”します。なぜ、“苦痛”がパラメータなのか? ――それは、苦痛を伴わないダイエットなど、ダイエットとはいえないからです。数字が、それをちゃんと語ってくれるのです。
恒例の後輩レビュー
後輩:「江端さん。江端さんの『コロッケ論』分かりにくいですよ。書き直してください」
江端:「そんなに分かりにくい?」
後輩:「要するに、『ダラダラ5年かけて、ラクしてダイエットしますか?』それとも、『苦しくとも、3カ月程度で、一気に勝負を決めますか?』って言いたいんでしょ?」
江端:「いや、正直に言うと『らくらくダイエット』というフレーズそのものに腹を立てている」
後輩:「と言うと?」
江端:「ダイエットというのは、人体という超ロバストな高精度な精密システムの全体に対して、大規模な改造(軽量化)を施すことだぞ。現状、安定している系(システム)を、わざわざ不安定な系の状態にしてまで、全く別の系の状態に遷移させることだ」
後輩:「『システム改修』の話ですね」
江端:「ある社会インフラシステムでは、1日だってシステムを停止させることができないものだから、数年かけて改修方法を検討し、2年かけて机上実験やコンピュータシミュレーションを繰り返し、検討作業員はのべ数千人を超え、作業当日には、数百人の人間が現場に張りつくという、まさに史上空前の……あー、こほん。まあ、なんだ、そういう話を、私も風のウワサで聞いたことがある」
後輩:「……そういえば、江端さん。あの当時、顔色悪かったね」
江端:「しかるに、だ。外界からの変化に対して『超』のつく高精度ロバストシステムである人体の『改修』が“らくらく” ―― だとう? なめんなよ。『らくらく』どころか、系(人体)から、『苦痛で報復される』のは、あったりまえだろうが!」
後輩:「江端さん。それはちょっと酷ですよ。だって、太っていく方向には、いつだって『らくらく』なんですから、痩せていく方向にも『らくらく』を期待するのが、人情ってものですよ」
江端:「まあ、太っていく方向にも、別の痛み(生活習慣病とか、出会いの機会損失とか)はあるかもしれないけど……」
後輩:「で、最終回直前で、これまでの「『ダイエットの失敗』の必然」の総括として、わざわざ、推論エンジンを作って、シミュレーションまでやってみたわけですね」
江端:「何? 何か気になることでも?」
後輩:「いや、あらためて、『江端さん、一応、研究員だったんだなー』と思いまして」
江端:「『一応』って……」
(後半に続く)
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Profile
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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