IoT機器のRoot of Trustはマイコンであるべき:ルネサス「Synergy」のセキュリティ戦略(2/2 ページ)
ルネサス エレクトロニクスは、設計基盤プラットフォーム「Renesas Synergyプラットフォーム」の新しいセキュリティ戦略として、IoT(モノのインターネット)機器の製品ライフサイクルの全段階を保護する「DLM(Device Lifecycle Management)」を発表した。DLMは、IoT機器のセキュリティに対するルネサスの考え方を、具現化したものとなっている。
ネットワークのセキュリティは、あらゆる人々の問題に
さらに、製品の過剰生産も防止できる。ファームウェアを暗号化する段階で、1)同ファームウェアを使用できる期間、2)同ファームウェアでプログラムできるマイコン数を設定できるので、例えば1000個製造すべきところを1万個量産し、過剰に生産した9000個を違法に販売する、といった不正行為はできなくなる。
Carbone氏は、「これまでの組み込み機器は、故障品であれば新品と取り換え、新製品が発売されたらそれを購入するというのが一般的だった。だが、インターネットに接続できるスマートフォンのような製品が登場したことで、不具合の修正や新しい機能/サービス(アプリなど)の追加を、インターネットを介してソフトウェアで行うというビジネスが増えてきた。重要なのは、“どう安全性を確保しながら”そのビジネスを行うのか、ということだ。ネットワークにかかわるセキュリティ対策は、今や(IoT機器の開発や製造、使用にかかわる)あらゆる人々の問題となった」と強調する。「そのため、Synergyの開発では、企画段階から“セキュリティはSynergyの根幹となるもの”という認識を持っていた。Synergyは、マイコンを含めゼロから作り上げたプラットフォームなので、既存のセキュリティ技術や概念にとらわれず、まっさらな状態でセキュリティ機能を考え出すことができた。これは、ルネサスにとってはめったにない機会だったと思っている」(Carbone氏)。
Synergyに対する反応は?
Synergyのβ版の提供が始まったのは2015年10月だ。それから約4カ月が経過したが、顧客の反応はどうなのだろうか。
Carbone氏は「予想以上の手応えを感じている」と語る。同氏によれば、現時点でSynergyを使用して製品開発プロジェクトを進めている顧客は、世界中で350社に上るという。開発キットの販売数は5000個を超え、ルネサスおよびパートナー企業のSynergy向けソフトウェアアドオンのダウンロード数は2万件に達した。ルネサスの欧州法人であるRenesas Electronics EuropeのIndustrial & Communication Business Group Marketing Head of Unitを務めるTim Burgess氏は、「Synergy関連のセミナーを開催すると、毎回満席になるどころか、登録者以上の参加者が来る」と話し、米国だけでなく欧州でも、Synergyへの関心は高いと話した。
とりわけ、ソフトウェアライセンス使用料を削減できる点が、顧客/潜在顧客の興味を引くようだ。Carbone氏は「大手企業も中小企業も、ライセンス契約の締結にかなりの時間とコストを割いている。その点、Synergyは1クリックで、ライセンス契約が済み、ダウンロードをスタートできる」と説明する。
収益性についてCarbone氏は、「ルネサスの中でも、恐らく最も収益性の高い製品に位置付けられるようになるのではないか」と自信をみせる。同氏は、数値は明らかにしなかったものの、「Synergyの(一定期間における)利益は、最小の予測値よりも20%上回るとみている」とコメントした。なお、ルネサスで汎用事業を統括する執行役員常務兼第二ソリューション事業本部長の横田善和氏は、2015年12月に開催された同社のプライベート展示会「Renesas DevCon Japan 2015」で、Synergyの売り上げ目標について「2015年12月の販売開始から5年以内に累計800億円」と述べている*)。
*)関連記事:ルネサス横田氏が語る、Synergy/R-INの未来
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「半導体業界の“Apple”を目指す」ルネサス
ルネサス エレクトロニクスが米国で開催した「DevCon 2015」では、同社の設計基盤「Renesas Synergyプラットフォーム」が大きなテーマの1つとなっていた。Renesas Electronics Americaでプレジデントを務めるAli Sebt氏は、「Synergyで半導体業界の”Apple”を目指したい」と述べる。 - ルネサスが“クルマ”を売る!? その真意とは
ルネサス エレクトロニクスは米国で開催した「DevCon 2015」で、同社のADAS(先進運転支援システム)向けの最新SoCなどを搭載した自動車を披露した。実は、この自動車は、自動運転車などの開発を促進すべく同社が発表した“プラットフォーム”である。 - Jeepのハッキング問題、ネットの脆弱性が深刻に
Fiat Chrysler Automobiles(FCA)の「Jeep Cherokee(ジープ・チェロキー)」がハッキングされたニュースは、大きな注目を集めた。FCAはこれを受けて、140万台のリコールを発表している。車載ネットワークにおける脆弱(ぜいじゃく)性の問題が、いよいよ深刻になっている。 - シャープが鴻海を選んだ理由と4800億円の投資先
シャープは2016年2月25日、臨時の取締役会を開いて鴻海から提案を受けていた支援策を受け入れることを決め、鴻海グループを割当先とする第三者割当増資を実施すると発表した。鴻海グループから調達する約4800億円の使途なども公表した。