鳥取の事例にみる、地方製造業“再生”の可能性:勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(14)(3/5 ページ)
本連載の最終回となる今回は、筆者が鳥取県で行ってきた、雇用創造プロジェクトの支援活動を通じて見えてきたことを紹介したい。素直に考えれば、雇用を創出するには、事業創出/事業拡大が必須になる。だが少ない人口、少ない資金に悩む地方圏の企業には、立ちはだかる壁が幾つもあるのだ。
かつて鳥取に君臨したメーカー
さて、皆さんは、「鳥取県」と聞いて何をイメージするだろうか?
正直、筆者はプロジェクトに関わる以前はほとんど鳥取県に関する知識を持っていなかった。鳥取砂丘と二十世紀梨、さらに、スターバックス(スタバ)について、知事が「スタバはないけど砂場(=鳥取砂丘のこと)はある」とダジャレを発していたことを知っていたくらいだ。つい最近では、鳥取県岩美町が、宝島社が発行する「田舎暮らしの本2月号」において、「2016年版 住みたい田舎ベストランキング」の第1位を獲得している。だからと言って、就業世代が、首都圏での生活や仕事を捨て、急に田舎に定住する決意ができるかどうかは、未知数だ。
同県には、鳥取三洋電機がセットメーカーとして君臨してきた歴史がある。皆さんもカーナビの「Gorilla(ゴリラ)」や、ホームベーカリーの「GOPAN(ゴパン)」を聞いたことがあるだろう。筆者にとっても、自宅にこれらの製品があるので、なじみ深い製品である。これらは鳥取三洋電機が開発したヒット製品だ。同県内の多くの中小企業は鳥取三洋電機の下請けであり、セットメーカーではなく、部品サプライヤーとして存在したため、同社がなくなった時の事業インパクトは大きいものだった。多くの雇用も失われた。
そこから数年、ようやく周辺企業は立ち直りの兆しを見せている。しかし、長期間にわたり、構造的に下請け企業として存在してきたこれらの企業は、自社内に企画部門、マーケティング部門、営業部門、さらに設計部門ですら持っていなかった(必要がなかったともいえる)。そんな中小企業が、ある日突然、独り歩きを始めるためには、それなりの自立支援策が必要だったのである。
雇用創出には事業創出/事業拡大が必須
鳥取県の人口は、47都道府県中で最下位の57万人ちょっとだ(2016年2月時点)。死亡率が出生率を上回っているため、何も施策を取らなければ自然に人口減である。さらに、若者の県外流出がこれを加速している。同県は知事を筆頭に、活性化や企業誘致などの取り組みに熱心で、2015年の知事再選時には「雇用創出1万人」を掲げている。
ここで考えたいのは、人口減に歯止めがかからない同県で、1万人の雇用をどのように生むかである。筆者は同県の人間ではないので、雇用創出は県庁を中心とした関係者が考えれば良いことだが、ごくまっとうに考えれば、「雇用創出には事業創出と事業拡大が必須」であるということだ。
県外から企業誘致を行って数百〜千人規模の雇用が生まれたとしても、1万人はかなり難しいと容易に予想できる。仮に、大規模な工場、それこそ、自動車や総合家電メーカーの工場ができれば話は違ってくるが、現実的にすぐに実現するような類のものではない。生産の主要拠点は一部、日本に戻りつつあるが、まだまだ海外生産が多いことは否めない。
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