「iPhone」ロック解除拒否問題が決着:米司法省が訴えを取り下げ
米国の銃乱射事件における「iPhoneロック解除拒否問題」は、米司法省が解除要請を取り下げたことで、決着はついた。だが、法の執行とプライバシー保護との境界線を引くことの難しさが課題として残る。
米司法省は、米国カリフォルニア州サンバーナーディーノ(San Bernardino)の銃乱射事件で主犯容疑者が使っていた「iPhone」のセキュリティロック解除要請をAppleに申し立てていたが、この訴えを取り下げた。
米連邦検事は2016年3月28日(現地時間)、提出した短い文書の中で、「政府は、銃乱射事件でSyed Farook容疑者が使っていたiPhoneのデータにアクセスすることに成功したため、もはやAppleからのサポートは不要となった」と述べ、裁判所命令の無効化を要請した。
AT&TやTwitterなどの幅広い技術コミュニティーはこれまでに、Appleの立場を支持する法廷助言書を提出している。また、オバマ大統領と米司法長官であるLoretta Lynch氏は最近、米国の技術都市であるテキサス州オースチン(Austin)とカリフォルニア州サンフランシスコをそれぞれ訪れ、公の場で政府側の見解を主張したところだった。
米司法省担当者からのコメントが発表されていないため、政府が今回、iPhoneのデータへのアクセスに成功した際に、新しい技術を使ったのか、または既存技術を使ったのかどうかは明らかになっていない。
しかし、The New York Timesの記事には、米司法省の広報担当者のコメントが次のように引用されている(参照)。「今後も政府にとって、国家の安全と治安を確保していく上で、法の執行によって確実に重要なデジタル情報を取得できるようにすることが最優先課題となる。関係者からの協力を得られない場合は、法廷制度を利用する。こうした使命を果たすためには、メーカー各社に協力を求めたり、官民両セクターの創造力に頼るなど、あらゆる選択肢を追求し続けていく考えだ」。
Appleの支持者は、訴えの取り下げを歓迎
Appleの支持者側は、今回の訴訟取り下げを歓迎している。
デジタル著作権関連のNPO(非営利団体)である「Fight for the Future」は、報道向け資料の中で、「信頼できる技術専門家たちの間では、『FBIがiPhoneのセキュリティロック解除を回避できる方法は複数あったはずだ』とする見解で一致している。政府が今回、Appleとの間で法廷闘争を繰り広げた目的は、iPhoneのデータにアクセスするためというよりは、民間企業の製品に強制的にバックドアを設置させるという先例を作ることだったのではないだろうか」と述べている。
Fight for the Futureの共同創設者であるTiffiniy Cheng氏は、「政府側は、情勢を分析した結果、裁判所と世論のいずれにおいても戦いに負けるであろうことが分かり、少なくとも今回は諦めたのだろう」と述べている。同団体には、Appleを支持するコメントが2万件以上も集まったという。
訴訟の取り下げにより、業界と政府はもっと協力的な体制の下で、法の執行とプライバシーとのバランスをめぐるベストプラクティスを打ち出すためのチャンスを得ることになったといえる。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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