磁気センサーの“異端児”がウェアラブルを変える:スピン制御で超高感度を実現(4/5 ページ)
超高感度磁気センサーの開発を手掛けるマグネデザインが、まったく新しい原理を採用した磁気センサー「GSR(GHz-Spin-Rotation)センサー」を開発した。現在最も普及している半導体センサーに比べて50倍の感度を実現している。
マイクロコイルの開発で小型化
1GHzのパルス電流とともに、GSRセンサーの小型化の鍵を握っているのが、コイルと、GSRセンサーの周辺回路だ。
アモルファスワイヤの直径は10μmだ。毛髪1本の直径は約150μmなので、その15分の1と非常に細い。通常使われるコイルを巻くとなると、ワイヤとコイルの距離があり過ぎて、電圧を取り出せなくなる。
そのため、本蔵氏らは特殊な方法でコイルを形成する方法を開発した。
まずシリコン基板に、幅25μm、深さ6μmのV字型の溝を掘る。その溝に垂直になるように銅か金を等間隔に蒸着させ、「下部コイル」を形成する。次に、V字溝に沿ってアモルファスワイヤを配置する。最後に、その上から、また垂直方向に金属を蒸着させ「上部コイル」を形成するのである。“ワイヤにコイルを巻く”のではなく、“ワイヤをコイルで挟む”イメージだ。マグネデザインは、これを「マイクロコイル」と呼ぶ。マイクロコイルの開発によって、コイルとワイヤの距離を、2mmから20μmまで縮めることができたという。
上記の工程で特殊なのは「(c)ワイヤ配置」だ。ここ以外は、通常の半導体製造装置を利用できる。本蔵氏らは「アモルファスワイヤ整列装置」という専用の装置を開発し、これで(c)の工程を行う。作業者が電子顕微鏡をのぞきながら、ワイヤを配置する位置を合わせる。位置合わせの後は、自動でワイヤが配置されていく。
同氏らは、アモルファスワイヤ整列装置について特許を取得した。なにせ幅25μmの溝に、直径10μmのワイヤを置くのである。許容される“回転ずれ”は、わずか0.01°だ。“横ずれ”も1μmしか許されない。本蔵氏は、「この装置がなくては、GSRセンサーは作れない」と強調する。ワイヤの長さは、必要な感度/コストに合わせて0.1〜2.0mmで調整できる。長いほど、感度もコストも高い。
さらに、マイクロコイルを駆動するためのバッファ回路と、1GHzのパルス電流に対応できる高速スイッチも必要だった。「通常のピックアップコイルであれば抵抗は5Ωくらいだが、マイクロコイルは断面が極めて小さいため、抵抗が200Ω〜2kΩに一気に高くなってしまう。抵抗が高いコイルでも駆動できるバッファ回路が必要だった」(本蔵氏)。
なお、通電するパルス電流は、1GHz〜2GHzが最適だと本蔵氏は考えている。これ以上周波数を上げると、スイッチやバッファ回路など、周辺回路の扱いが極めて難しくなってしまうからだ。
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