STT-MRAMの基礎――情報の蓄積に磁気を使う:福田昭のストレージ通信(23) 次世代メモリ、STT-MRAMの基礎(1)(2/3 ページ)
次世代不揮発メモリの候補の1つに、STT-MRAM(スピン注入磁化反転型磁気メモリ)がある。データの読み書きが高速で、書き換え可能回数も多い。今回から始まるシリーズでは、STT-MRAMの基本動作やSTT-MRAが求められている理由を、「IEDM2015」の講演内容に沿って説明していこう。
エレクトロニクスとスピントロニクス
STT-MRAM(Spin-Transfer Torque Magnetoresistive RAM)は、「スピントロニクス(spintronics)」の考え方を発展させたものである。従来の磁気工学が物質の磁気的な性質を主に取り扱うのに対し、「スピントロニクス」では磁気と電気の相互作用を主に取り扱う。
はじめにエレクトロニクスにおける情報の輸送(伝送)と蓄積(記憶)を考える。情報を輸送するとき、情報の担い手は電荷(電子あるいは正孔)である。導体あるいは半導体の中を電荷(電子あるいは正孔)が移動することで、情報が移動する。情報を蓄積するときは、電荷を例えばキャパシターに充てんしておく。
スピントロニクスにおける情報の輸送と蓄積は、「スピン(spin)」から出発する。スピンとは「スピン角運動量(spin angular momentum)」の略称である。量子力学では、電子は2つのどちらかのスピン角運動量(記号は「S」)を備えていると考える。具体的には、電子スピンSの値はプラス2分の1あるいはマイナス2分の1のどちらかである。中間的な値は存在しない。
そして全ての電子は、スピン角運動量で決まる磁気モーメント(magnetic moment)を有する。磁気モーメントの向きは、電子が原子核の周囲を周回する軌道面に対して垂直な方向で、「上向き」あるいは「下向き」のどちらかになる。
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