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大いなるタブーなのか――人身事故を真面目に検証する世界を「数字」で回してみよう 人身事故(29)(2/8 ページ)

電車を日常的な移動手段にしている者にとって、疲れ果てている時、急いでいる時に発生した人身事故ほど、心が疲弊するものはありません。ですが、声を大にして人身事故を批判することはタブーである、という暗黙の了解が、なぜか存在するのです。今回から始まる新シリーズでは、この「(電車での)人身事故」について、「感情的に」ではなく「数学的に」検証したいと思います。

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「いくら」なのか、「なぜ」なのか

 第二は、「いくら?」です。

 人身事故によって引き起こされる「現実の金銭的損害」は、どの程度なのか、私は知りません。

 人身事故によって影響を受けた人数は、マスコミなどの「この事故によって、約1万人の足に影響が出ました」というフレーズでまとめらます。

 ですが、そもそも、この「1万人」という数字を、どうやって算出しているのかも私は知りません。

 さらには、このような人身事故の影響は、ドミノ倒しのように広がって、当然に多くの人の予定や計画を狂わせていくはずですが、人身事故を直接の原因として、会社が倒産したとか、失職したとか、失恋、離婚したという話は、(あるかもしれませんが)聞いたことはありません。というか、そういうイベント(事象)で把握すること自体が、極めて難しいことも分かります。

 もちろん、学術的な研究による試算結果もあるようですが、結局のところ社会全体の被害として把握されています。

 しかし、私は、この「人身事故による現実の私の金銭的損害」を、自分の手で計算してみたいと考えています。

 そして、第三は「なぜ?」です。

 今回の連載を始めるに際して、私は、この「人身事故」を含めた自殺全般に関して、統計データ、具体的な自殺事件、自殺後に発生するコスト、自殺に関する国民性の違い、宗教的背景など、さまざまな本を読みまくりました。

 今、わが家には、図書館から大量に借りてきた「自殺」という見だしの付く本が、散乱しています*)

*)家族には連載の話は通してあるものの、娘は、「パパって、本当に『自殺』が好きだよね」と冷たい声で私に言い放ちました。以前、後輩から『江端さんって、ナチズムの信奉者なのですか?』という、ものすごい質問を受けたこともあります。

 これらの本や、いろいろなネットサイトの記事やコラムを読みまくった結果、(まだ主観の域を出ませんが)鉄道を使った人身事故(による自殺)は、他の自殺とは、少々違うように思えるのです。

 うまく言えないのですが ―― 他の自殺より、軽い ―― といった感じでしょうか。この“軽さ”というキーワードは、頭に入れておいてください。

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