強磁性、常磁性、反磁性の違い:福田昭のストレージ通信(25) 次世代メモリ、STT-MRAMの基礎(3)(2/2 ページ)
今回は、STT-MRAM(スピン注入磁化反転型磁気メモリ)の動作原理と物理的な作用を説明する。
強磁性体、常磁性体、反磁性体の基礎
ここからは講演にはないが、基礎事項である材料と磁性の関係について補足する。世の中に存在する物質を磁性的な性質で大きく分けると、「強磁性体」「常磁性体」「反磁性体」になる。
「強磁性体」とは、外部から磁界を加えると磁界と同じ方向の磁気を強く帯びるとともに、外部からの磁界をゼロにしても強い磁気が残る材料である。初めから強い磁気を帯びていることもある(「自発磁化」と呼ぶ)。またこのような性質を「強磁性」と呼ぶ。単に「磁性体」と呼ぶときは、強磁性体を指すことが多い。
強磁性体は、磁気メモリや磁気ディスクなどの磁気記憶媒体の実現に欠かせない。にもかかわらず、室温で強磁性を示す材料はあまり多くはない。鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ガドリニウム(Gd)などである。ただしGdは強磁性を示す温度がおよそ20℃以下なので、工業的には利用しづらい。実質的にはFe、Co、Niのわずか3種類の金属元素に限られている。
「常磁性体(paramagnetic material)」とは、外部から磁界を加えると磁界と同じ方向の磁気を弱く帯びるものの、外部からの磁界をゼロにすると磁気を帯びなくなる材料である。またこのような性質を「常磁性」と呼ぶ。
常磁性体では外部磁界が存在しない状態での原子の磁気モーメント(電子スピンによる磁気モーメント)が存在しており、磁気モーメントの方向がばらばらであるために全体としては磁気を帯びていない。外部磁界を加えると磁気モーメントが回転して一定の方向にそろうので、磁気を帯びる。室温で常磁性を示す材料は、アルミニウム(Al)やクロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ナトリウム(Na)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)など、数多い。
「反磁性体(diamagnetic material)」とは、外部から強い磁界を加えると、非常に弱い反対方向の磁気を帯びる材料である。外部磁界をゼロにすると、磁気はゼロとなる。このような性質を「反磁性」と呼ぶ。
常磁性体と反磁性体の大きな違いは、反磁性体では外部磁界がゼロのときは、原子の磁気モーメントが存在しないことだ。外部磁界によって原子の磁気モーメントが誘起される。室温で反磁性を示す代表的な材料は、水、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム酸化物、塩化ナトリウム(NaCl)などである。
実は、強磁性体と常磁性体も反磁性を有している。ただし反磁性は極めて弱いので、強磁性あるいは常磁性によって打ち消されてしまう。実際にはあらゆる物質が反磁性を有している。その中で反磁性が顕在化している材料だけを、「反磁性体」と呼んでいることになる。
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