ARMの10nmチップ、2016年末にもスマホに搭載か:テープアウトは完了(2/2 ページ)
ARMは2016年1月に、TSMCの10nm FinFETプロセス向けにSoC(System on Chip)のテストチップをテープアウトしたことを明らかにした。この10nm SoCは、2016年末までに携帯端末に搭載される予定だという。同プロセス技術は、比較的コストが高いが、低消費電力化に注力している。
TSMCやSamsungと協業
TSMCとARMは過去4年間にわたり、プロセス技術やIP(Intellectual Property)の開発において密接な協業関係を構築してきた。またARMは、Samsung Electronicsとの間でもファウンドリー契約を締結し、独自開発の10nm FinFETプロセスの実現に向けて積極的に取り組んでいる。
Moore氏は、EE Timesのインタビューに対し、「SamsungとTSMCは、10nmプロセス技術をいち早く実用化すべく競争を繰り広げているが、どちらが一番乗りを果たすのかについてはそれほど重要なことではない。フィンの寸法はそれぞれ異なるが、どちらのプロセスをArtemisに適用しても、同じ性能を実現できると考えている」と述べる。
TIRIAS Researchの主席アナリストであるJim McGregor氏は、「SamsungとTSMCの競争は続くとみられるが、いずれIntelが14nmプロセス開発の時と同じような問題にぶつかることになるだろう」と指摘する。
McGregor氏は、EE Timesの取材に対し、「両社とも、ARMベースの製品の製造に積極的なことから、ARMのアーキテクチャがいかに強力であるかが分かる。ただ、プロセス同士を比較する必要に迫られたとしても、Intelが10nmプロセスを実現すれば、それが最も強力な技術となるだろう。しかしIntelには、効率のよいファウンドリーとしての実力はない」と述べる。
膨大な開発費用
10nmプロセスへの移行には追加のコストが発生する。Moore氏によると、28nmプロセスを実現するための設計コストは約550万米ドルだったが、10nmプロセスではおよそ3250万米ドルかかる見込みだという。なお、この金額はInternational Business Strategiesが2015年8月に算出したものである。10nmプロセスではさらなるイテレーション(反復)やIPが必要になる。
VLSI ResearchのCEOであるG. Dan Hutcheson氏は「10nmプロセスに移行する場合、極めて高価な設計ツールを購入するなど、多大な初期投資が必要になる。そもそも、10nmプロセスに早期に移行するのは市場で優位に立っている企業なので、そのような多大なコストを投じるだけの余裕があるのだ。開発費と設計をめぐる議論は、そうした大手企業にとってはある意味、“自慢のネタ”といえるのかもしれない」と述べた。
Hutcheson氏は、チップ設計コストは販売価格の15%以上になるべきではないこと、10nmプロセスの設計コストはかなり複雑な要素で構成されていることを付け加えた。3250万米ドルという数字には、エコシステムにおけるIPの量、設計チームのコスト、設計ツールの性能、市場規模といった要素の全てが組み込まれている。10nmプロセスが普及するにつれ、そうしたコストは縮小していくことになる。
FD-SOIの普及は進まず
ARMは、アナリスト向けのあるイベントでは、より低コストな代替技術であるFD-SOI(完全空乏型Silicon on Insulator)に関する最新情報を提供しなかった。同社は2016年4月13日に米国カリフォルニア州サンノゼで開催された「FD-SOI Symposium」で、FD-SOI Symposium FD-SOIを“実現可能な技術”と認めた。
Moore氏は「FD-SOIは非常に素晴らしい技術であり、極めて優れた電力効率を実現する」との見解を示している。
一方で同氏は「顧客の採用事例やエコシステムがあるとは聞いていない。FD-SOIには、LPDDRやメモリインタフェース、IPといったものがまだ欠けている。さらに、エコシステムも十分に発展していないことから、本来であればもっと採用されていてもいいものの、普及が進まないのだろう。FD-SOIに対応したいファウンドリーは、それなりの投資が必要になる」と続けた。
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
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