もはや我慢の限界だ! 追い詰められる開発部門:“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(1)(2/4 ページ)
コストの削減と開発期間の短縮は、程度の差はあれ、どの企業にとっても共通の課題になっている。経営陣と顧客との間で“板挟み”になり、苦しむ開発エンジニアたち……。本連載は、ある1人の中堅エンジニアが、構造改革の波に飲まれ“諦めムード”が漂う自社をどうにかしようと立ち上がり、半年間にわたって改革に挑む物語である。
舞台は湘南エレクトロニクス
株式会社湘南エレクトロニクスは、2016年で創業60年を迎える。神奈川県藤沢市で始めた小さな電気屋さんから出発し、現在は東京に本社を置く。工場内には生産部門以外に、研究所や技術部門などがあり、湘南の海にほど近いところに立地している。
主力製品は映像関係機器であり、主に放送局や映画製作会社をはじめとしたプロフェッショナル用機材がほとんどだ。最近は、ホームセキュリティの分野にも進出しているが、画像認識などの分野ではまだ後発だ。社員数は約2000人で、東京の本社に約450人、湘南の工場と国内拠点で約1500人がいる。他、子会社になるが海外工場に50人ほど在籍し、現地指導などにあたっている。
主要顧客も固定的で競合も限られている同社は、創業以来、企業経営そのものは健全で安定している。リーマンショック(2008年)時とその翌年度は、一時的に赤字決算となったが、大掛かりな構造改革などはこれまで一度も経験をしたことがない。会社としては、従業員を削減することなく難局を乗り切った自負があるようだ。同様に、多くの社員は危機意識とは無縁で、「これまでの延長で未来もあり会社も存続する」と考えている。
しかし、そうは言っても、リーマンショック時の経験は経営陣には衝撃的だったようで、他の製造メーカーを見習って、コスト削減には余念がない。コスト削減は、以前は製造部門を中心に行ってきたが、ここ1〜2年は開発部門にもおよび、加えて短納期開発が要求されている。
では、本コラムで登場する人物の相関図を図1に示す。
「こんなにたくさん覚えられない」と思うだろうが、主に登場する人物は入社13年目の主人公、技術部開発課の主任、須藤良太(35)とその周辺人物7〜8人だ。図1には、登場回数が少ない人物まで含まれているので、今後は場面に応じて、人物のキャラクターを都度、説明していく。従ってここでは全部、覚える必要はなく、「誰だっけ?」と思ったときに、図1を参照していただきたい。
須藤は湘南工場の技術部開発課の主任で、これまでに何件も開発プロジェクトのリーダーを務めてきた中堅社員だ。エンジニアとしては周囲も認める知識、実力を備えていて、部門内でも一目置かれている。しかし、思ったことをハッキリと述べるので、周囲とぶつかることも少なくない。最近は、開発コストの削減要求が厳しいだけでなく、短納期開発を余儀なくされている。加えて、東京本社の営業部からは「顧客要求を全て満たすようなモノを作れ」と無理難題を突き付けられて、それを言われた通りに開発するという部門の体質に嫌気がさしている。
これまでにも開発課長の森田博(45)に何度となく、こうした体質について相談や要求をするが、「お前が管理職になったら好きなようにすればいいだろ」と一蹴される。社員はみな、危機意識のかけらもなく、目の前にある自分の開発案件には熱心だ。しかし、無理なコスト要求をされて文句を言いながらも素直に従う「言われっぱなし」の姿勢にも腹立たしさを感じている。「こんなことでいいのか?」「今の仕事のやり方は顧客のためになっているのか?」と須藤は疑問を持ち始める。
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