もはや我慢の限界だ! 追い詰められる開発部門:“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(1)(1/4 ページ)
コストの削減と開発期間の短縮は、程度の差はあれ、どの企業にとっても共通の課題になっている。経営陣と顧客との間で“板挟み”になり、苦しむ開発エンジニアたち……。本連載は、ある1人の中堅エンジニアが、構造改革の波に飲まれ“諦めムード”が漂う自社をどうにかしようと立ち上がり、半年間にわたって改革に挑む物語である。
相次ぐ大企業の不祥事
大手企業の不祥事が後を絶たない。この1年間で目立った大きなものだけでも、1)エアバッグ破裂のタカタ、2)免震ゴム偽装の東洋ゴム工業、3)傾きマンション問題を引き起こした旭化成建材・三井不動産、4)粉飾決算ともいえる不適切(不正)会計の東芝、5)排ガス不正問題のフォルクスワーゲン、そして、6)三菱自動車の燃費不正問題などが挙げられる。
顧客や購買者/消費者、取引企業からすれば、今後いかに再発を起こさないように改善していくつもりなのか、その具体策も気になるだろう。
これらを取り扱った記事も、「コンプライアンスが機能していなかった」という漠然とした内容のものばかりだ。特に三菱自動車においては過去に同様の前科があるため、ひとくくりに企業体質や組織風土の問題だとして結論付けている記事も多い。しかし、本当に企業体質が原因であるならば、そう簡単には直らず、「どうせまた同じことをやらかすに違いない」と思う諸氏も少なくないだろう。
とかく、このような不祥事では、会社ぐるみであったかどうか? 経営者がどこまで知っていたのか? と、経営トップや企業全体に問題の目が向きがちであるが、ここで注目したいのは、前述の不祥事では、3)と4)を除き、各社に共通して設計や開発部門が少なからず関わっていることである。
さて、電機業界に目を向けてみたい。皆さんもご存じのようにここ数年で日本を代表してきた電機メーカー(三洋電機、東芝[家電部門]、シャープ)は軒並み、海外企業の傘下となった。こうなってしまった理由はいろいろあり、経営(経営者)が原因だと言う人もいるだろうし、製品そのものや製品開発にも原因があると主張する人もいるだろう。東芝においては企業不祥事が業績悪化を加速させる一因にもなっている。筆者なりの見解の1つとして、価値の創造や獲得の視点と製品アーキテクチャと組織能力の視点で述べたコラム『勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ』も一読していただければ幸いだ。
ある電機メーカーにおける企業革新の物語
さて、これから皆さんにお読みいただくのは、ある電機メーカーで中堅の開発エンジニアが始めた、企業変革の物語だ。これまでに当社(株式会社カレンコンサルティング)が支援してきた企業で実際に抱えていた問題を元に、筆者自身がエンジニアだった時の体験を重ねてストーリー調にしたもので、会社名や人物名は全て架空である。随時、解説も交えてお伝えしていければと考えている。
一見、順風満帆であった会社で、ある日、小さな不祥事が明るみに出る。それが引き金となって業績は一気に悪化。リストラや賃金カットの波が押し寄せ、社内には「もはやここまで……」という諦めムードが漂う。そんな中、常日頃から問題意識が人一倍強かった開発エンジニアの須藤(主人公)が立ち上がるが……。
開発エンジニアに限らず、自分の会社を悪くしようと思って仕事をしている人はいない。企業組織の中では経営者から現場まで、部門間のやりとり、職場における雰囲気、上司部下の関係などに影響を受けながら、さまざまな価値観をもった人の集まりの中で誰もが仕事をしている。個人の意志よりも、組織の意志や理屈が優先されることも少なくない。
皆さんの会社が同じような事態になった時に……と書くと、「縁起でもない!」と言われそうだが、「企業変革」は、会社がどんな状態にあっても意識すべき要素の1つだなので、「皆さんだったらどのような行動を取るか」などを一緒に考えていただければと思う。
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