もはや我慢の限界だ! 追い詰められる開発部門:“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(1)(4/4 ページ)
コストの削減と開発期間の短縮は、程度の差はあれ、どの企業にとっても共通の課題になっている。経営陣と顧客との間で“板挟み”になり、苦しむ開発エンジニアたち……。本連載は、ある1人の中堅エンジニアが、構造改革の波に飲まれ“諦めムード”が漂う自社をどうにかしようと立ち上がり、半年間にわたって改革に挑む物語である。
「現場から本音が出てこない」――須藤のジレンマ
須藤自身も、課長の森田にはあれこれ要望を言うと、最後は大体口論で終わってしまうことは分かっている。そもそも、森田に期待することが無駄だとも思っている。にもかかわらず、とにかく黙ってはいられない性分なのだ。
須藤の目には、社内は至って平和で、のんびりとしているようにしか見えず、危機意識は微塵(みじん)も感じられない。まぁ、危機ではないのだから、それは仕方ないのかもしれないが、理不尽な要求が上から落ちてきて、さらに営業部に“言われっ放し”では、ちっとも面白くない。何も言わない周囲のメンバーに対して、怒りさえ覚える。「なんで、お前ら何も言わないんだ!?」……本当はみんなも心の中では言いたいことが山ほどあるはずだ。ホンネが出てこない、口に出すことすらはばかれる現場なんて、おかしいじゃないか……!
須藤自身は子供のころから映画が大好きで、小遣いを全て映画鑑賞につぎ込んでしまうほどだった。特に海外の映画制作会社が、どうやって圧倒的にきれいな映像を撮影したのか、どんな機材を使って、どのような処理をするとこうなるのかに強い興味を持っていた。その結果、自然と行き着いた先が湘南エレクトロニクスであり、就職活動では第一志望の会社になった。会社を誇りに思い、自社で作った製品でこんなに素晴らしい映画ができる、映像を生み出しているということが何よりもうれしかった。
そう、直接、映画製作や放送関係の仕事に関われなくても、そこで使われている機材は自分が開発しているのだ。そして、その製品を作っている湘南エレクトロニクスのことを誰よりも誇りに思っていた。それがなんだ……今日は思わず森田さんに、「腐った会社」と言ってしまった。いつから、「誇りある会社」を「腐った会社」だと思うようになってしまったのだろう。
部長の中村がこの言葉に引っ掛かっていたように、須藤もまた、自分自身の言葉をかみしめ、振り返っていた。
企業の中では、表立ってモノを言うことがはばかれる、おかしいと思いながらも声を挙げることができないという雰囲気は少なからずあるだろう。「それを言っちゃおしまいだよ」という、自制心にも似たものが、どの従業員にも存在するのではないだろうか。
須藤が感じたものはまさにこれである。皆さんの会社ではいかがだろうか?
【次回予告】
自社を「腐った会社」と言い放った須藤だが、同期の仲間や上司・先輩に相談をしながら、製品開発の在り方、開発エンジニアのモチベーション、顧客の要求と製品設計などについてあらためて考える。同時に、一部製造部門と海外製造子会社では、後に大問題となる事象が静かに進みつつあった――。第2回へ
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Profile
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を開発設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画業務や、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱。2012年からEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』『”AI”はどこへ行った?』『勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ』などのコラムを連載。書籍に、『上流モデリングによる業務改善手法入門(技術評論社)』、コラム記事をまとめた『いまどきエンジニアの育て方(C&R研究所)』がある。
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