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電子スピンの注入による磁化反転の原理:福田昭のストレージ通信(31) 次世代メモリ、STT-MRAMの基礎(9)(2/2 ページ)
磁気トンネル接合(MTJ)を利用したデータ書き込み原理の説明を続ける。今回は、電子スピンの注入によるデータ書き込み(磁化反転)の原理に触れる。
磁気モーメントの回転による反作用トルクが磁化反転を起こす
ここで重要なのは、交換相互作用によって電子の磁気モーメントは横方向の成分を失う(回転して垂直方向に向きを変える)とともに、強磁性体の磁気モーメントに回転トルクを与えることだ。強磁性体に与えるトルクは、電子の磁気モーメントが回転することの反作用であり、トルクの方向は電子の磁気モーメントの回転とは反対の方向になる。例えば電子の磁気モーメントが左回りに回転したときは、磁性体の磁気モーメントは右回りのトルクを受ける。
1個の電子によるトルクは非常に小さいが、数多くの電子によるトルクが集まれば、いずれは強磁性体の磁化を反転させるほどの大きさのトルクになる。これが、電子スピンの注入による磁化反転の基本的な原理である。
すなわち強磁性体で磁化反転を起こすには、スピンの向きがそろった電子を数多く注入し、交換相互作用によって反作用トルクを発生させる。反作用トルクが一定以上の大きさになると、強磁性体で磁化反転が起こる。
反作用トルクの大きさは電流密度によって決まる。電流密度一定の条件で微細化すると、電流値そのものは減少する。これが、スピン注入型MRAMが微細化に適している大きな理由である。
(次回に続く)
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