メイドたちよ、“意識高い系”を現実世界に引き戻してやれ!:江端さんのDIY奮闘記 EtherCATでホームセキュリティシステムを作る(最終回)(10/11 ページ)
「ご主人様とメイド」の例えで産業用ネットワーク「EtherCAT」の世界を紹介してきた本連載も、いよいよ最終回です。今回も、前回に引き続いて、EtherCATを開発したベッコフとEtherCAT Technology Groupの方々へのインタビューの模様をご紹介しつつ、「EtherCAT」への熱い想いで締めくくります。
Q:皆さん、疲れませんか?
江端 最後に、1つだけ皆さんに聞きたいと思います。人類の移動手段が、馬から車に代わるのに1000年くらいかかったんですが、私たちは、それと同程度のパラダイムを、人生ですでに5回くらい経験していると思うんです。5000年分です。正直しんどくありませんか?
川野さん 家電製品が最初の販売から100万台売れる時間を比較した小川絋一先生の有名な分析があるのですが、レコードや洗濯機は10年以上かかっていますが、DVDプレーヤーは 2年、 スマホに至っては1年未満なんです。このような変化をフォローし続ける人生が幸せかどうかは分かりませんが。
江端 正直、私はしんどいです。Twitterがなければ、平安な執筆の日々を送っていたと思いますし、電子メールがなければ、少なくとも3人の友人と絶交することはなかったと思うんです。便利なものが出てくるのは結構なのですが、いかんせん「速すぎる」。
川野さん 実は同じようなことが制御の世界でも発生しているんです。制御LANを、ラダー言語で動かそうとする年配エンジニアと、C言語で動かそうとする中堅エンジニアの関係が、水と油になってしまうという問題が出ているんですよ。
江端 分かります、その感じ―― というか、分かる年齢になってきました。昔は『新しい技術についてこられない奴が悪い』って公言していたんですけどね。まさか自分が「ついてこられない奴」の側に回ることになろうとは思いもしませんでした。
川野さん 『技術の言葉』が通じないことで、技術、経験の断絶が発生します。速すぎるITの進歩は、アナログ技術の継承を立ち切ってしまいます。ですから、TwinCAT3ではこの辺のギャップを生まないように、GUIで工夫しているつもりではあるのですが。
ここで、川野さんが村尾さんに向いて、言いました。
川野さん ところで、村尾さん。この技術の継承問題に対して、メディアへの期待は大きいですよ。この点をどのように考えていますか。
村尾さん 実は、今やアナログの技術者は少なくなっているのですが、アナログ回路の記事へのアクセス数って、本当にすごいんですよ。特に入門編のヒット数がものすごいです。私たちの記事に頼らなければならないほど、現場では技術を教える人間がいなくなっているのだと思います。
川野さん それは、技術の継承がスムーズに実施されていないことの証拠の1つなんでしょうね。
村尾さん かなりの危機感があります。1つの例ですが、新人の記者が、半導体ウェハーの幅を『40メートル』と記載したまま、校了しようとしたことがありました。
ビルの高さの半導体ウェハーか―― それは怖いな。
川野さん 私が回路設計の仕事をしていたころ、回路図を見た先輩が、「こっちの回路、20ピコほど、浮いている(浮遊容量がある)んじゃないか」と指摘されて、実際に回路を作って計測したら、ピッタリ「20pF」だったことがあります。
こっちはこっちで怖いです。
川野さん なんで分かったんですか、と先輩に尋ねたところ、「電子の気持ちになってみれば分かるだろ」って言われたんですよ。
「電子の気持ち」 ―― 私には、一生、分かりそうにありません。
江端 正直なところ、私自身が、新しい技術のフォローアップに疲れてきました。正直、制御LANの世界においては『EtherCATが、私の最後の仕様』としたいです。
ですから、私は、
―― EtherCATの次の制御LANの規格は、もう現われるな
と、心の底から祈っているのです。
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