メイドたちよ、“意識高い系”を現実世界に引き戻してやれ!:江端さんのDIY奮闘記 EtherCATでホームセキュリティシステムを作る(最終回)(9/11 ページ)
「ご主人様とメイド」の例えで産業用ネットワーク「EtherCAT」の世界を紹介してきた本連載も、いよいよ最終回です。今回も、前回に引き続いて、EtherCATを開発したベッコフとEtherCAT Technology Groupの方々へのインタビューの模様をご紹介しつつ、「EtherCAT」への熱い想いで締めくくります。
実は、『職人』なんですよ
江端 実は、『職人』なんですよ。
彼らは、作り方にこだわりがあって、要求通りに動かず、プライドも高い。
しかし、彼らがいなければ、工場は成り立っていかない―― そういうリアルな場面をたくさん見てきたのです。
そういうこともあって、私は父の工場を継ぎませんでした。
私は、そんな職人たちを、マネジメントする自信がなかったのです。
江端 ですから、私が期待する「インダストリー4.0」とは、いわば「Windows化された工場パッケージ」のことで、1人で全部できちゃう工場の実現です。
「インダストリー4.0のApp Store」が実現されれば、すぐにでも父の会社を再興したいくらいです。
そもそも私は、個人的に他人と一緒に仕事をするのが得意な方ではありません。仕事の時の私は、仕事モードに切り替えますが、それは仕事だからです。
私(たちの世代)が徹底的にたたきつぶしてきた「飲みニケーション」だの、「社内運動会」だのの悪しき風習が、最近、また復活していることを、私は、心の底から苦々しく思っています。
村尾さん そういえば、「インダストリー4.0」は、ドイツの国家プロジェクトと位置付けられますが、江端さんは、「国家や政府主導の技術プロジェクトは、大抵の場合失敗する」とおっしゃっていましたよね。
江端 「日本の場合は」という前提条件が付きますが、本当にそう思っています。
例えば、IT分野で成功した例は思い出せませんが、失敗例であれば、「シグマ計画」「トロン」「キャプテン」「アナログハイビジョン」ですね。どんな言い訳をしようとも、失敗は失敗です。
村尾さん なんで失敗するんですか?
江端 2つあるかな、と思っています。
1つは「仕様がオープンでない」ということです。
まず、私たちの血税で始められたプロジェクトの仕様に金を払えとか、または、仕様書を手に入れるのに、書類を提出し、承認を得て、誓約書を書かされ…… 心底、アホかと思いますよ。
私にとって「オープン」とは、検索に5秒、仕様書の最初のページが見られるまで5秒、合計10秒以内にできることをいいます。
村尾さん もう1つは?
江端 「動くものがない」ということです。
山のような仕様書をボンと机の上に置けば、私たちエンジニアが、勝手に何かを作り出すと思っているんでしょうか。
私たちエンジニアは、それほど能天気でもなければ、気前よくもありません。
せめてサンプルプログラムとか、テストライブラリーとかを、無償で公開してくれていれば、『いっちょ、やってみるか』という気になることもありますけどね。
実際、“SOEM(Simple Open EtherCAT Master)”というEtherCATマスタの、全てのソースコードが無償で公開されていなければ、私は、今回の連載を始めることはできなかったと思います。
村尾さん そう考えると、「インダストリー4.0」とは、我が国にとってどういう意味を持つことになるのでしょうか。
江端 ドイツに対抗して、意地を張ってアホなプロジェクトを立ち上げるのではなく、せっかくドイツがこのような素晴しい「外圧」…… ではなく「コンセプト」をプレゼントしてくれたのです。
しかも、日本の製造業の態様ともマッチするというまれなケースです。
ならば、日本の製造業も、とっとと、このイベントに乗っかるべきだと思っています。
そして、先月(2016年4月)、実際に、日本の自動車会社が「乗っかった」―― と、思っています。
江端 冒頭でも説明しましたが、「標準化をコントロールできる立場にならないと、ひどい目に遭う」というのは確かです。
しかし、長年、IT業界にいると、標準化をコントロールする立場の方が「負けている」んじゃないかなー、と思うようなこともあります。
実際、標準化活動を立ち上げ、維持するコストは半端ではありません。
江端 我が国が、「標準化をコントロールする」ことが苦手であるなら、無理せずに、標準化に関しては「乗っかる」とか「抱き付く」という戦略を、国策としてもよいと思うのです。
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