遷移金属酸化物で量子ホール効果の観測に成功:強磁性や超伝導の物性を持つ量子デバイスに道(2/3 ページ)
理化学研究所などの研究グループは2016年5月、遷移金属酸化物であるチタン酸ストロンチウムの単結晶薄膜を用いた2次元電子構造で量子ホール効果の観察に成功したと発表した。
蒸気圧の高い揮発性の有機金属ガスソース
通常、MBEでは薄膜を構成する各元素について高純度原料を加熱蒸発させることで薄膜を作製する。この場合、結晶成長時の原子の運動エネルギーが低いため、欠陥が少ない薄膜を得ることができる。しかし、これまでの遷移金属酸化物を用いたMBEでの薄膜作成は、構成元素である遷移金属の蒸気圧が低く原料供給速度が安定しなかった。そのため、組成ズレが起きることで薄膜に欠陥が生じていた。
そこで共同研究グループは、遷移金属単体を加熱蒸発させる代わりに、蒸気圧の高い揮発性の有機金属ガスソース(チタンイソプロポキシド)を用いる「ガスソースMBE」が、組成ズレの抑制に有効であると考案。また、半導体レーザーを用いた基板加熱による高温成長を組み合わせることで、結晶性のさらなる向上に取り組んだ。
高品質な量子井戸構造を作製するため、井戸部分にだけ電子を放出するドナー(La)を添加した厚さ200nmほどのデルタドープSrTiO3構造(SrTiO3=厚さ100nm、LaドープSrTiO3=厚さ10nm、SrTiO3=厚さ100nm)を設計し、ガスソースMBEにより作製した。
上図のようなトランジスタ構造において、電子濃度を制御して、極低温/磁場下で電気特性を測定したところ、整数量子ホール効果の観測に成功。下のグラフは、試料の縦抵抗値(シート抵抗値)とホール抵抗値の磁場依存性を示し、ホール抵抗値が量子抵抗(h/e2)の4分の1(−0.25、+0.25)と6分の1(−0.167、+0.167)で量子化して、それらの磁場(−12T、+12T、−7T、+7T)でシート抵抗値が極小値を示している。
共同研究グループは、第一原理理論計算でこの二次元構造の電子状態計算を行った結果、SrTiO3のチタンの2つの異なる3d電子バンドを二次元電子が占有していることを確認。この2バンドモデルにより、偶数倍でのみ量子化し、電界効果で電子濃度を変化させた際に安定な占有状態が変化するという、デルタドープSrTiO3構造独特の振る舞いを明らかにした。
さらに、シート抵抗の磁場による振動振幅の温度依存性と第一原理理論計算から、その二次元電子の2つのバンドの有効質量は、それぞれ自由電子の質量の約0.6倍と1.2倍と見積もり、「この質量は、他の量子ホール効果を示す二次元電子に比べて1桁以上重く、強い電子相関効果が発現していることを示す」(共同研究グループ)。
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