浮いたグラフェンナノリボンの集積化合成に成功:グラフェンデバイス実用化に大きく前進か(2/2 ページ)
東北大学などの共同研究グループは2016年6月2日、グラフェンナノリボンを100万本以上集積した状態で、高効率合成する手法を開発したと発表した。
合成モデルを実証
こうした研究結果から、急速加熱拡散プラズマCVD法における架橋グラフェンナノリボン合成が次のような合成モデルで説明できることを実証した。
- 急速加熱によるニッケルナノバーの液体化
- プラズマからニッケルナノバーへの高効率炭素供給によるニッケルナノバー液体の安定(親水性)化
- 冷却初期におけるニッケルナノバー液体からのグラフェンナノリボンの析出
- グラフェンナノリボン析出に伴うニッケルナノバー液体の不安定(疎水性)化
- プラトー・レイリー不安定性によるニッケルナノバー液体の構造破壊
- 界面張力によるニッケルナノバー液滴のグラフェンナノリボン両端への移動
これらの反応により、最終的にグラフェンナノリボンが基板から浮いた架橋構造で合成されることが解明された。
さらに研究グループは、これらの合成機構をもとに合成条件の最適化を行った結果、センチメートルオーダーの基板上に100万本以上の架橋グラフェンナノリボンを90%以上の高効率で集積化合成することに成功した。
ジグザグ型に近い構造でスピン応用デバイスも?
偏光ラマン分光測定の結果から、構築した手法で合成したグラフェンナノリボンのエッジ構造は、ジグザグ型に近い構造を支配的にとることも明らかになった。研究グループでは「このような架橋グラフェンナノリボンをウエハースケールで合成した結果は、世界で初めて」としている。
さらに研究グループは今回の研究成果について、「これまで基礎研究に限定されてきたグラフェンナノリボンの研究を実際のデバイス応用へと展開する非常に大きな貢献が期待される。合成したグラフェンナノリボンが基板から浮いた構造をとっているため、ナノスケールでの機械的振動が可能であることから、グラフェンナノリボンの電気、光、機械的特性を合わせた新概念デバイスの実現に向けた研究の進展が期待される」としている。また、グラフェンナノリボンがジグザグ型に近いエッジ構造をもつことから、ジグザグエッジに局在することが理論的に予測されている特殊なスピン状態を利用したデバイス開発への貢献も期待されている。
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