イノベーションを生み出す2つの環境:イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜(2)(1/2 ページ)
「新結合」であるイノベーションを行う環境には「クローズド」と「オープン」の2つがある。「クローズド・イノベーション」は、「社内だけで開発し、市場に最初に製品を投入すれば勝てる」という考え方。一方で「オープン・イノベーション」は、「社外の知見も取り入れ、よりよいビジネスモデルを築くことで勝てる」とする考え方だ。
インベンションが「50年後」にもたらす変化
さて、第1回では、「イノベーション」という言葉が特に「技術革新」を指すわけではないことを説明した。イノベーションとは「新結合」であり、何か核となるアイデアが既にあり、それらが結合、もしくは化学反応を起こすことで新しいものが生まれてくる、という考え方なのである。
イノベーションについては、もう1つ、大切な側面がある。それは、「ある発明(インベンション)があって、50年程たつと、その発明をベースにしつつ、それとは直接関係はないような、社会に変化を起こすようなものが生まれてくる」ということだ。
経営学の第一人者でもあるピーター・ドラッカーの著書『Managing in the Next Society』に書かれている例を挙げると、まず1400年代にグーデンベルクが発明した活版印刷がある。
活版印刷以前の時代、書物は手書きで作るしかなかった。そのため、「本を作る」というのは膨大な手間のかかる作業であり、聖書など本当に重要なものしか作られなかった。それが活版印刷技術が発明されたことで、手書きで作る必要がなくなり、聖書が大量に生産されて大ベストセラーとなった。そして、それから50年がたつと、宗教とは関係のない、世俗文学の本が量産されるようになったのである。
1700年代に発明された蒸気機関でも同じことがいえる。当初は紡績機や織機に利用されていた蒸気機関は、やがて鉄道に使われるようになった。これにより、人々が「家」と「仕事場」を鉄道で往復するという、「通勤」の概念が生まれた。つまり蒸気機関が発明されて半世紀がたったころには、人々の生活パターンに質的な変化をもたらしていたのだ。
さらに、もっと私たちに身近な例としては、インターネットとコンピュータが挙げられるだろう。コンピュータは1950年代に開発されたが、それによって起きた最大の変化は、それまでは手計算で行っていたものが、機械計算に置き換わったということである。それだけの話だった。ところが、それから40〜50年近くたち、1990年代になるとインターネットが登場した。これは、単に「手計算が機械計算になった」こととは、全く異なるインパクトを社会に与えた。このインパクトがどれほど大きなものであるかは、読者の皆さんもよくご存じだろう。
このように、インベンション(発明)をベースにしたイノベーションは、当初のインベンションとは質的に異なる変化を社会にもたらしてきたのである。
ニーズありきで生まれる「イノベーション」
こうして振り返ってみると、インベンションというのは、テクノロジーによって生まれるケースが非常に多いことが分かる。インベンションが生まれる頻度は20〜30年に一度、あるかないかだろう。だがそれ故、社会に与えるインパクトは大きなものになることが多い。
一方でイノベーションは、「市場のニーズによって引き起こされる」と考えられる。ニーズが最初にあって、それに対する解決方法を見いだす過程でイノベーションが生まれる場合が多いということだ。つまりイノベーションの多くは「目的を持った作業」であり、「デザイン思考」などともいわれている。
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