イノベーションを生み出す2つの環境:イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜(2)(2/2 ページ)
「新結合」であるイノベーションを行う環境には「クローズド」と「オープン」の2つがある。「クローズド・イノベーション」は、「社内だけで開発し、市場に最初に製品を投入すれば勝てる」という考え方。一方で「オープン・イノベーション」は、「社外の知見も取り入れ、よりよいビジネスモデルを築くことで勝てる」とする考え方だ。
クローズド・イノベーションとオープン・イノベーション
「イノベーション」という言葉の捉え方を一通り紹介し終えたところで、次のステップに進みたい。
イノベーションを行う環境として「クローズド・イノベーション(Closed Innovation)」と「オープン・イノベーション(Open Innovation)」の2つがある。想像がつくと思うが、クローズド・イノベーションというのは、何でもかんでも自社で進めていくということで、オープン・イノベーションは外部と連携しながら進めていくという方法だ。
クローズド・イノベーションでは、「業界の優秀な人物は全て自社にいて」「研究開発の成果を享受するためには、自分たちが研究開発を行い、自分たちが製品を市場に出すべきである」という考え方が根底にある。最初に研究開発を行えば、最初に製品を市場に投入できるはずで、そうすれば競争に勝てる――。このような思考回路なのである。
そのため、クローズド・イノベーションを行う企業は、IP(Intellectual Property)を強くコントロールして、自分たちの研究成果を奪われないようにする、という考え方を持っている場合が多い。少々辛口で言わせてもらうならば、「自分たちの知恵でベストなアイデアを出せば、競争に勝てるはず」という、ある種の幻想を抱いているのだ。そして、クローズド・イノベーションで開発を進める企業は、世界中に多数存在するのである。
一方、オープン・イノベーションで前提となっている考え方は「優秀な人物は社内だけにいるわけではない。自社以外の人材や経験、専門知識にアクセスすることも必要だ」というものである。また、研究開発から利益を生み出すためには、自分たちがゼロから全て行う必要はないとも考えている。「最初に製品を市場に投入すべき」と考えているのがクローズド・イノベーションだが、オープン・イノベーションでは、よりよいビジネスモデルの構築に重きを置き、社外のアイデアも取り込んで活用することで勝てるとしている。IPについても、他社にも自分たちのIPを活用してもらい、ライセンス供与などの利益を生み出すことを目指している。
さて、実は、クローズド・イノベーションの“悪い事例”として、しばしば取り上げられてしまう企業がある。次回は、それを紹介しよう。
(次回に続く)
⇒「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー
Profile
石井正純(いしい まさずみ)
ハイテク分野での新規事業育成を目標とした、コンサルティング会社AZCA, Inc.(米国カリフォルニア州メンローパーク)社長。
米国ベンチャー企業の日本市場参入、日本企業の米国市場参入および米国ハイテクベンチャーとの戦略的提携による新規事業開拓など、東西両国の事業展開の掛け橋として活躍。
AZCA, Inc.を主宰する一方、ベンチャーキャピタリストとしても活動。現在はAZCA Venture PartnersのManaging Directorとして医療機器・ヘルスケア分野に特化したベンチャー投資を行っている。2005年より静岡大学大学院客員教授、2012年より早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授。2006年よりXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。
新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。
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