印刷できる不揮発メモリ、IoT市場に成長機会:ラベルとしても使える
プラスチックなどの超薄型基板に印刷して製造できる不揮発メモリが登場した。ラベルとして製品などに貼れば、物流や、偽造品判断、製造過程での何らかのデータ保存など、さまざまな用途に使うことができそうだ。
ラベルとして貼れる薄型メモリ
急激な成長を遂げるIoT(モノのインターネット)市場では、コネクテッドデバイスに向けた低消費電力の小型メモリの開発をめぐり、さまざまな議論がなされてきた。だが、メモリにとっての成長機会は、接続が不要なデバイスの分野にもあるようだ。そして、そこで重要な役割を担いそうなのがプリンテッドメモリである。
Thin Film Electronics(以下、ThinFilm)は、プリンテッドエレクトロニクスやスマートシステム、メモリの開発を手掛ける企業である。ドイツのデュッセルドルフで2016年5月31日〜6月10日に開催された世界最大の印刷機器関連の展示会「Drupa 2016」では、Xeroxが、ThinFilmが開発したメモリを使ったデモを披露した。Xeroxは、2015年1月に技術ライセンス供与を受け、米ニューヨーク州ウェブスターにある既存工場の製造ラインを変更して、ラベル型の不揮発性メモリ(メモリラベル)を製造しているという。
36ビットの情報を保存可能
Xeroxのプリンテッドメモリ担当マーケティングマネジャーを務めるPatrick de Jong氏は、EE Timesとの電話インタビューの中で、「当社のプリンテッドメモリは、プラスチックラベルなどの基板上に回路を印刷する。非常に柔軟性に優れたメモリであるため、さまざまな用途に利用できる。不揮発性メモリラベルは薄いので、製造やサプライチェーンのどの段階でも取り付けることができ、最大36ビットの情報を保存することが可能だ。たいした情報量ではないように見えるかもしれないが、680億通りの組み合わせができる」と述べる。
ネットワークに接続されているIoT機器の場合とは異なり、Xeroxのプリンテッドメモリのデータは、リーダー端末などを物理的に接触させ、オフラインで読み書きする。これにより干渉を抑制し、セキュリティを高めることが可能だ。de Jong氏は、「データ保持期間は最大10年間で、ロットコードやシリアルナンバー、有効期限、場所なども、ラベル上に保存することができる」と述べる。
同氏は、「プリンテッドメモリ上に保存されたデータは、製品そのものであり、顧客そのものであるといえるかもしれない。メモリ容量は小さいが、保存されるデータの重要性は極めて高い」と付け加えた。用途例としては、薬の処方の際に認証を提供するためのラベル、コーヒーメーカーや自動販売機といったものが挙げられる。
またプリンテッドメモリは、ブランドの保護にも利用できる。偽造品はメーカーに膨大な損害をもたらす恐れがあるため、安全性の面からも有用だといえる。第三世界では、医薬品の偽造との戦いは、生死に関わる重大な問題となっている。
プリンテッドメモリは、ThinFilmとXeroxのパロアルト研究所(PARC)と共同で開発された。メモリの他、特別なコードも基板上に印刷される。このコードは暗号化に使われる。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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