白黒画像に色の見えを作り出す技術を開発:方位と色の連合、低次視覚野で生じることを発見(1/2 ページ)
国際電気通信基礎技術研究所(ATR)らの研究チームは、方位(傾き)と色の連合学習が、視覚処理の入り口にあたる低次視覚野において生じることを突き止めた。
色覚障害(大脳性色覚障害)の治療などに期待
国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報通信総合研究所、ブラウン大学認知言語心理学部、及び情報通信研究機構(NICT)脳情報通信融合研究センターは2016年7月、方位(傾き)と色の連合学習が、視覚処理の入り口にあたる低次視覚野において生じることを初めて発見したと発表した。新たに開発した技術「連合デコーディッドニューロフィードバック法(Associative decoded neurofeedback: A-DecNef)」は将来、脳梗塞などによる大脳損傷によって生じる色覚障害(大脳性色覚障害)の治療などにもつながる可能性が高いという。
視覚や聴覚など複数の感覚入力と、形や色など感覚属性の対応関係の学習(連合学習)は、複数の感覚入力と感覚属性をペアにして示されると、一方だけで他方が想起される現象である。その代表例として、ベルの音を聞くだけで犬が唾液を分泌するパブロフの条件反射や、梅干しを見ただけで唾液が出てくる現象などが挙げられる。
こうした連合学習は、これまで大脳皮質前頭葉や頭頂葉、海馬といった、比較的高次の脳領域で起こると考えられてきた。今回の研究では、非侵襲的な脳活動操作技術であるA-DecNef法を用い、視覚野の入り口にあたる低次視覚野(第一次視覚野、第二次視覚野)において、方位と色の連合学習が生じることを世界で初めて突き止めたという。
A-DecNef法
これまで、人間の脳活動を非侵襲的に変化させる方法として、経頭蓋磁気刺激法(TMS)、経頭蓋電気刺激法(tDCS/tACS)が提案され、多くの脳科学研究に用いられてきた。また、機能的MRI(fMRI)で計測した脳の特定領域における空間パターンを、ミリメートル単位で細かく調べれば、被験者が見ている画像や見ている夢の内容までをも予測できることが分かっている。この手法は「デコーディング」または「脳情報解読法」と呼ばれるもので、ATRが開発した。この原理を応用したのがDecNef法である。TMSやtDCS/tACSでは困難であった、特定の情報表現に対応した脳活動のパターンを作り出すことが可能となる。
A-DecNef法は、この方法をさらに進化させた。被験者に実際に与えている感覚入力(今回は白黒の縦縞)によって生じる脳活動とDecNefによって誘起する赤色に対応した脳活動を対応付けることに成功した。
今回の実験を行う前段として、被験者の低次視覚野の脳活動パターンから、現在見ている画像の色を推定できるデコーダー「色デコーダー」を作製した。その上で、A-DecNef訓練を3日連続して実施した。被験者は、丸の大きさとして示されるフィードバックを手がかりに、白黒の縦縞を見ている最中の自分の低次視覚野活動の操作を行う。訓練の結果、被験者は頭の中で計算をしたり、テレビ映像のシーンを思い出したり、色とは無関係なことを行ったにもかかわらず、丸のサイズを大きくすることができたという。
トレーニング終了後に、白黒の画像がどのように見えたかを定量化するための心理実験を行った。縦縞模様や横縞模様を示し、被験者にその縞が何色に見えたかを「赤」と「緑」の二択で選んでもらった。その結果、トレーニングに参加しなかった被験者(比較群)は、縦縞、横縞いずれについてもほぼ半々の割合で赤、緑を回答した。つまり白黒に見えていることが分かった。これに対して、ニューロフィードバックに参加した被験者(A-DecNef群)は、縦縞に対して赤反応を示す割合が増大した。このことは白黒の縦縞画像に対し、赤色の見えを作り出すことに成功したことになる。一方、横縞に対しては緑色と回答する割合が増大したという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.