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だから減らない? 鉄道への飛び込みは“お手軽”か世界を「数字」で回してみよう(32) 人身事故(2/8 ページ)

このシリーズを始めて以来、「鉄道を使った自殺は、他の自殺より“軽い”ような気がする」という印象を拭えずにいます。そこで今回、なぜ“軽い”と感じるのか、それを具体的に検討してみました。

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人身事故、原因の半数は“酒”だった!?

 さて、人身事故といえば、どうしても「飛び込み自殺」に目が行きがちですが、実は、人身事故の中には「酔客による事故」というのが、シャレにならないくらい多いようです(というか、私も、今回計算するまで知らなかった)。

 下記は、国土交通省に情報公開してもらった*)鉄道事故のデータから「酔っぱらい」に関する事故の件数を数え上げたものです。

*)行政機関の保有する情報公開に関する法律第9条第1項の手続き。今は、インターネットで公開請求できます(参考)。

 このデータから読み取れることは、結構な比率で「酔っぱらいが電車を止めている」ということです。しかも、その割合は、シャレにならん程にデカいのです(2013年なんか、自殺者数の半数にまで切迫している)。

 さらに、もう少し調べてみると、その事故の内容の比率は「車両への接触」が8割、「ホームへの転落」が2割、(ふざけて?)ホームに降りて電車を止めたばか者も、年間、何人かはいるようです。

 データを解析しながら、ふつふつと怒りが湧いてきました。

 私たちが、深夜の電車にギューギュー詰めにされて、おっさんの体臭、おばさんの香水、尿意、便意に耐えながら、停車した電車に何十分も閉じ込められて、それでもなお、怒りを抑えて耐えているのは、

『死に至った人の、辛く悲しい思いに寄り添わなければならない』

とか、

『明日は、私だって、そのような状況に追い込まれるかもしれない』

という、

この生きにくい毎日を、相互に分かり合おうという思いやりの精神のたまものだと思っています。

 しかし、

  • 残業で疲れ果て、ダルい体を引きずりながら帰宅する夜遅い時間帯で、電車を止めた奴の正体が「正体を失った、ただの酔っぱらい」で
  • その「酔っぱらい」は、派手に電車の遅延を発生させた揚げ句、本人は、軽いけがで済んでいるとしたら

―― 私は、絶対に許さん。


 ふざけるな。

 自分がホームのどこを歩いているか分からんような飲み方をして、揚げ句の果てに数千人から数万人のオーダーの人間に迷惑を掛けるとは、お前は一体どこの世界の人間だ。

 こんなばか者を年間250人近くも量産している私たち社会人は、春の桜の花見で急性アルコール中毒になって病院に搬送される若者を、批判する資格などありません。

 深夜、突然止まった電車の中で車掌が流す、「○○駅で人身事故が発生したようです」というアナウンスが、何となく歯切れが悪いように感じるのは、これが理由なのかもしれません。

○○駅で、酔っぱらった大手電気総合メーカーの主任研究員が、ふざけてホームに降りたため、現在、安全点検中につき全ての車両を停止させています

というアナウンスが流れたら――。どの電車でも、怒り狂った乗客が暴動を起こすでしょう。

 その事故の翌日、(本人が社会的に破滅させられるのは当然として)その会社の株は暴落し、その主任研究員の勤務先の研究所は焼き討ちされるかもしれません。

 もし、事故の詳細を知らせれば、乗客が怒りを抑えられなくなったり、(上記のような事件が起こって)鉄道会社が人身事故の被害をさらに拡大したりすることになりかねない――。

 「人身事故」という四文字熟語は、この社会を穏やかに維持させるための社会的なダンパー*)なのかもしれません。

*)ばねやゴムのような弾性体などを用いて、衝撃を弱めたり、振動が伝わるのを止めたりするための装置

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