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だから減らない? 鉄道への飛び込みは“お手軽”か世界を「数字」で回してみよう(32) 人身事故(3/8 ページ)

このシリーズを始めて以来、「鉄道を使った自殺は、他の自殺より“軽い”ような気がする」という印象を拭えずにいます。そこで今回、なぜ“軽い”と感じるのか、それを具体的に検討してみました。

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「損害額」のデータがない

 こんにちは、江端智一です。

 前回、私は簡単なシミュレーターを使って、鉄道人身事故の損害コストの計算をしました。

 この計算結果は、鉄道会社の人から見れば、稚拙な計算で、誤差も大きい結果になっていると思います(失笑どころか大爆笑されているかもしれない)。

 数字を取り扱う研究員は、そういう批判や批評が怖くて仕方ありません。なぜなら、研究者としてのキャリアが台無しになるかもしれないからです。

 それに、国や鉄道会社に「モノ申す」ことになりかねない、このような研究結果は、いろいろなしがらみ(基本的には研究費[=カネ]です)もあって、できるだけ関わりたくないものです。

 それを承知で、私が、このような計算を強行したのは、

―― どうしても、人身事故の「金(カネ)」関するデータを見つけ出すことができなかった

からです。決して将来を悲観して、やけくそになっているわけではないです*)

*)私だって部長や所長や社長になりたいのです。ただ、私がそう言うと、皆が(特に後輩研究員たちが)大爆笑するんですが、なぜでしょうか?

 話を戻しますが、本当に「損害額」データがないんですよ。皆無、絶無です。

 臆測と思い込みに基づく投稿や記事は山ほど見つけられますが、そのバックデータ(根拠となる基礎データ)の開示が全くありません。

 だから今、私は国土交通省に開示してもらったデータ、年間5000件、約10年間分、合計5万件のデータをせっせと解析し、そこから「損害額」を導き出そうとしているさなかです。

あなたの“70分”が狂わされる

 さて、「損害額」の話は次回以降にさせていただくことにして、今回は、5万件のデータ解析から導かれた人身事故の中でも、特に「飛び込み自殺」についての全体像を描いてみたいと思います。

 前回は、どの程度の規模の事故が発生すると、どの程度の遅延や損害が発生するかをシミュレーションで計算しましたが、今回は「どの程度の規模の事故が、現実に発生しているのか」を調べてみました。

 下記のグラフは、過去10年間の「飛び込み自殺」によって発生した、事故の発生から復旧までの時間を、10分単位で積み上げてみたものです。

 平均時間70分を中心とした、典型的な正規分布のグラフになっていることが分かります。

 これは、「あなたが、人身事故に巻き込まれて、その原因が「飛び込み自殺」であることが分ったら、まず70分はスケジュールが狂わされるという考え方をベースとしておくと良い」 ―― とも考えることができます。

 しかし、だからといってこれは、「あなたが重要な会議のプレゼンテータなどを行わなければならない場合は、予定時刻の70分(1時間10分前)に到着するつもりでいることが必要」 ―― という、単純な話にはならないのです

 というのは、今回、このデータの標準偏差を計算してみて(σ=38.9分)、びっくりしたからです。

 面倒な統計の話になるので、概要だけざっくりお話しますが、1度、飛び込み自殺に巻き込まれれば、110分(1時間50分)前に出発してもプレゼンに間に合うという保証は68%程度にとどまります。一方、150分(2時間30分)前くらいに出発しておけば、95%程度の安心を担保できます(しかし、2時間半前に、出張先に到着するスケジュールなんてむちゃくちゃだと思いますが)。

 それでも、鉄道人身事故に対する決定的な解決法がない現状にあっては、鉄道による移動手段は、常に到着時間に対する不安が拭いきれないのです。

 それでも、社会人であれば、プレゼンのリスケジュールとか、納期の延期とか、いろいろな対応策を取りうるかもしれません。

 しかし、鉄道の人身事故による損害で、絶対的に回復できないこともあります。私が、鉄道人身事故を心から憎悪する決定的な理由の1つに、受験会場に向かう受験生のチャンスをつぶすということがあります。

 ―― お前が、死のうが、ケガしようが、酔っぱらって転落しようが、そんなことは私の知ったことではない

 ―― しかし、私の娘の受験の機会を奪ったら、お前を生き返らせて、もう1度殺しに行くぞ

 このような、私の真っ黒な憎悪と、徹底したシステムエンジニア思考から生まれた発明が、「受験生デュアル配送システム」です。

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