ソフトバンク史上最大の賭けに出た孫氏の思惑:ARM買収は“必然”だった?(2/4 ページ)
なぜ、ソフトバンクはARMを買収したのか? 狙いはどこにあるのか? いろいろな見方が広がっている中で、いま一度、ソフトバンクが行ってきた大きな投資を振り返りながら、ARM買収の意味を考えた。
モバイルインターネット
また、PCブロードバンドというパラダイムシフトに対しても2001年に「Yahoo! BB」のブランド名で有線ブロードバンドサービスすなわち、「3.ネットワークインフラ」に参入。さらに、次のパラダイムシフト「モバイルインターネット」の入り口での賭けとして、Vodafoneの国内事業を買収。携帯電話通信事業者(キャリア)、ネットワークインフラ事業者としての色合いを濃くしたのだ。
5つのレイヤーからなるピラミッドの底辺からスタートしたソフトバンクはここまで、徐々にそのレイヤーを頂点に向けて上げてきた。モバイルインターネットの入り口で、上から3段目のレイヤーまで達したソフトバンクは、さらに上位のレイヤーと連携する。Appleとの連携だ。当時、Appleは“Wintel”の強固なプラットフォームに苦戦続きだったが、その後、モバイルインターネットでは「iPhone」で逆に“Wintel”を寄せ付けないプラットフォームを、(Google・Androidとともに2分した形で)構築することになる。
そのAppleと早くからソフトバンクは連携することで、キャリア事業で成功を収める。ソフトバンクは、Appleとともに「モバイルインターネットという潮流を創り出し、結果としてパラダイムシフトを起こした」と、少なくとも日本国内に限ってはいえるだろう。いわば、3.ネットワークインフラというレイヤーの幅、すなわち市場規模を、それまでのPCインターネット時代よりも、大きくしたといえる。
そして、これにより、それまでのソフトバンクの主戦場であった4〜5のレイヤーも自然と大きくなり、4〜5での事業もより収益を上げるようになる。今回、ARM買収の資金を生んだ阿里巴巴(アリババ)やSupercell、ガンホーも、モバイルインターネットというパラダイムシフトが起こったからこそ存在し得たといえる。かなり間接的ではあるが、キャリア事業に参入したシナジーが発揮されたといえるだろう。
なお、このモバイルインターネット時代にソフトバンクは、事業領域を日本から世界へと広げていく。日本で成功したキャリアビジネスを、Sprint買収という形で北米へと広げるなどし、ソフトバンクからターゲットにするピラミッドはより大きなものになった。
そして今、孫氏は「IoT」という新たなパラダイムシフトの入り口に立ち、そこでの大きな賭けとして、3.3兆円でARM買収という決断を行った。
IoT時代の生態系はどうなる?
IoT時代における5つのレイヤーのピラミッドは、どのように形成されるか、予想してみたい。
まず、ソフトバンクが現状、主戦場としているネットワークインフラについては、あまりプレーヤーは変化しないのではないだろうか。PCインターネット時代から、ソフトバンクの参入こそあったものの、あまり顔ぶれは変わっていない。IoT向けの新たな通信サービスを提供する事業者が欧州などで台頭しているので断言はできないが、くまなく通信インフラを整備するには、相当な資金力が必要であり参入障壁は高い。劇的にキャリアの顔ぶれが変わるとは考えにくい。
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