遅延50ミリ秒未満のロボット向け無線中継技術:山裏でもリアルタイム制御(2/2 ページ)
情報通信研究機構と産業技術総合研究所の研究グループは、制御用の電波が届かない場所にあるロボットを他のロボットを経由して遠隔制御し、その状態を監視する技術を開発したと発表した。
無線装置は920MHz帯を使用
NICTと産総研が開発した無線装置は、920MHz帯を制御信号とテレメトリー信号の双方向で使用している。920MHz帯は、2.4GHz帯に比べて遠くに電波を飛ばすことができ、2.4GHz帯と同じく無線局免許や無線従事者資格は不要で、デバイスの価格も安価になってきている*)。また、相互の干渉なく、安全に電波を共用するための規格が定められており、混信を受けるリスクは小さくなっている。
*)920MHz帯と2.4GHz帯も、無線装置の技術基準適合証明(技適)は必要。NICTによると、今回の実証実験で使用した無線装置も技適を取得している。
また、NICTと産総研は同技術を検証するため、試作装置を用いた屋外のフィールド実証実験を実施した。実証実験では、操縦者から見て見通し外にある小型四輪ロボットの安定な遠隔制御と、そのテレメトリー信号受信の実証に成功したという。
ドローン(マルチロータ型無人航空機)に中継装置を搭載し、上空高度約20〜30mでホバリングさせ、ドローンを経由して小型四輪ロボットへの無線通信回線を構成している。NICTはリリース上で、「ドローン経由で他のロボットを制御し、中継経路が途中で切り替わっても通信を切断させない技術は世界でもまだ実現した例はない」と語る。
2016年11月にドローンでの実証実験を
NICTと産総研は今後、制御対象を地上の小型四輪ロボットから、飛行するドローンに拡張する予定。また、無線による通信の信頼性をより高めるため、920MHz帯に加えて、緊急時のバックアップ用として、チャンネル数は限られるが、さらに遠くに電波を飛ばすことができるVHF帯(300MHz以下)を追加した無線装置に拡張予定とする。
NICTは、「小型四輪ロボットで行った実証実験の特性評価を現在、行っている最中だ。制御対象を飛行するドローンにするには、ドローンのコントローラーに対応するインタフェースを調整するだけで、技術的な問題はないと考えている。2016年11月には、内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)で実証実験を行う予定」と語る。
なお、今回の研究成果も、ImPACT(2015〜2016年度)によって得られている。
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