Intelモバイル撤退の真相――“ARMに敗北”よりも“異端児SoFIA”に原因か:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(7)(2/3 ページ)
今回は、2016年5月に明らかになったIntelのモバイル事業からの撤退の真相を、プロセッサ「Atom」の歴史を振り返りつつ探っていく。「Intelは、ARMやQualcommに敗れた」との見方が強いが、チップをよく観察すると、もう1つの撤退理由が浮かび上がってきた。
2015年、SoFIAプラットフォームが誕生
そして、2015年、Intelはモバイル事業継続のために成長著しいRockchipなどの中国半導体メーカーとの提携に踏み切った。そして、提携したRockchipとともに「SoFIAプラットフォーム」(図2)を発表した。
図3は、Intelが公表したSoFIAプロセッサ(SoFIAは開発コード名で、正式名称はAtom X3/5/7)の図面である。この図面には2つの大きな情報が書かれている。1つは、SoFIAで使われるプロセステクノロジーが「28nm」であるということ(図3の緑矢印1)。インテルは45nm、32nm、22nm、14nmの製造ラインを持っているが、28nmの製造ラインは持っていない。すなわちSoFIAは外部工場製ということになる。SoFIAが売れてもIntelの自社工場の回転率は上がらないということだ。
さらにSoFIAプロセッサのチップ図面を詳しく見ていこう。図3右上に紺矢印2で示したチップ図面は、発表当初のSoFIAプロセッサだ。もう一方の左上赤矢印3で示したチップ図面は、実際に発売されたSoFIAプロセッサ(AtomX3/5/7)の図面だ。右と左を見比べると、明らかに形状が異なっている。図3右は、それまで見慣れていたAtomコアが見受けられるが、図3左には見当たらないのだ……。
より詳しく説明するため図4を示す。
図4左は、SoFIA 発表前に出荷されていたAtomプロセッサ「Bay Trail」(4コア、22nmプロセス採用)の図面である。そして図4右は、先ほどの図3右のSoFIAプロセッサ(発表当初)の図面を平面化したものだ。分かりやすくするためともにCPUコア部分のみを着色した。明らかに同じ形状のデュアルコア構成のAtomコアが使われていることが分かるだろう。
しかし、実際に発売されたチップは、22nmプロセスでもなく28nmプロセスを使い、見慣れたAtomコアも搭載していない図3左(赤矢印3)のチップだったのだ。果たして、何が起こったのだろうか!?
“何らかの事情”
これまで紹介してきたチップ図面を見る限り、当初Intelは自社工場の22nmプロセス製造ラインでSoFIAプロセッサを生産する予定だったと推測される。しかも、恐らく実際に設計し製造まで行ったようだ(この件に関する詳細は次回に紹介する)。しかし、“何らかの事情”で急きょ、方針を切り替えて、28nmのSoFIAプロセッサを開発することになったのであろう。
“何らかの事情”としては、「Intelの22nmプロセスではコストが合わなかった」「電力性能が満たせなかった」「旧Infineon部門では手に負えなかった」などさまざまな理由が思い浮かぶ。あるいは22nm版開発チームと28nm版開発チームを並行させて競わせたという推測も成り立つだろう。
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