Intelモバイル撤退の真相――“ARMに敗北”よりも“異端児SoFIA”に原因か:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(7)(1/3 ページ)
今回は、2016年5月に明らかになったIntelのモバイル事業からの撤退の真相を、プロセッサ「Atom」の歴史を振り返りつつ探っていく。「Intelは、ARMやQualcommに敗れた」との見方が強いが、チップをよく観察すると、もう1つの撤退理由が浮かび上がってきた。
さまざまな思惑が飛び交った「インテル、モバイル事業を廃止」
Intelの広報担当者は、「これまでSoFIAとBroxtonに充ててきたリソースを、より高い利益率と戦略の進展とを実現可能な製品へ移行させていく考えだ」と述べている。
図1は、2016年5月6日に掲載された記事「インテル、モバイル事業を廃止」の一部である。Intelは2016年、Atomプロセッサを搭載するモバイルプラットフォームの開発を停止すると発表した。大々的にニュースとして報じられたので多くの方もご存じだろう。このニュースを受けて、「Intel、ARMに敗北!」「さすがにIntelもQualcommには勝てなかったかぁ」など、多くの声が聞かれた。
実際に、モバイルプロセッサ分野ではIntelは大きなスコア(性能指標)を得ることができなかった。このことが2007年以来、主力プロセッサ「Coreシリーズ」に続く“第2のコア”(下位シリーズ)として育んできたAtomの事業に急ブレーキがかかったことは間違いない。
Atomは、「atom=原子」という意味合いが込められた、極小のコアを持つインテル独自のCPUの名称である。Intelは、スマートフォンが市場として開花する前の2006年、第5世代ARMアーキテクチャ(ARMv5)ベースのマイクロプロセッサビジネス※)をMarvell Technologyに売却。その翌年、2007年に低消費電力の極小コアをAtomとしてリリースした経緯がある。
※)Intelは1997年にDEC(Digital Equipment Corporation)からARMベースのマイクロプロセッサ「StrongARM」に関する事業を買収し、「Xscale」の名称に変えて開発、販売を行っていた。
期待を背負ったAtomを襲った誤算
Atomコアは、来るモバイル時代の低消費電力コアとしてIntelは大きな期待を寄せていた。当時、IntelはAtomの大々的なキャンペーンを繰り広げ、AtomはネットブックやノートPCに次々と搭載されていった。しかし、大きな誤算は、スマートフォン、タブレットの誕生、そして急速な普及であった。
後手に回ったIntelはAtomをスマートフォンに搭載すべく、Infineon TechnologiesのベースバンドLSI事業を買収し、情報処理プロセッサのAtomと通信チップ「X-Gold」をチップセット化した。さらにIntelはGoogleとAndroidに関する提携も行った。これでハードウェアとOSの駒はそろったわけだ。そして、LG Electronics、Lenovo、XOLO(インド)などがIntelのAtomベースのモバイルプラットフォームを採用した。Qualcomm、MediaTekなどの牙城に挑む上では、上々のスタートであった。
しかし、IntelのモバイルプラットフォームとしてのAtomは当時、話題にこそなったものの、優れたスコアを残すには至らなかった。その原因は「電力性能不足」とも「プラットフォームとしての完成度の低さ」ともいわれた。Intelは当代トップの垂直統合型半導体メーカー(IDM)である。高性能なプロセッサを作るための技術はずぬけていた。しかし高性能は、電力性能には相反する。クルマのパワーと燃費の関係と捉えてもらえば分かりやすいかと思う。
結局、Atomは、消費電力が大きいことがネガティブに扱われた。それに対応すべくIntelは、モバイル向けの低消費電力プロセスを開発する。ゲート酸化膜や配線層の厚みを変えて、性能に直結する動作周波数ではなく、電力性能を追求したプロセスを仕上げた。しかし、いわゆる“ほぼ完成品”のチップセット/レファレンスボードを強化するQualcomm、MediaTekを脅かすには至らない。
それでもIntelはInfineonから買収したベースバンドLSI部門に引き続き「モバイルプラットフォーム」の開発を継続させた。M&Aのあるべき姿である。ポートフォリオの拡充のためのM&Aであったからだ。しかし、一向にスコアは上がらない。
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