多結晶並みの生産性で単結晶シリコン作製に成功:太陽電池向けで従来単結晶と変換効率は同等(1/2 ページ)
科学技術振興機構(JST)は、多結晶シリコンインゴットに用いられるキャスト成長炉で、結晶性に優れる単結晶シリコンインゴットを作製する製造法を開発したと発表した。新製造法によるシリコンウエハーで、従来の単結晶シリコンと同等の変換効率で太陽電池を実現できることも確認したとする。
キャスト成長炉を用いるNOC法
科学技術振興機構(JST)の研究チームリーダーである中嶋一雄氏らは2016年8月、生産性の高いキャスト成長炉*1)で単結晶シリコンインゴットを作製することに成功したと発表した。作製したインゴットを用いて太陽電池を製作したところ19.14%という高い変換効率を実現した。研究チームでは、一般的な単結晶シリコンインゴット作製法(チョクラルスキー法:CZ法)で作ったインゴットによる太陽電池と「変換効率は同等で、これは世界初の成果」とする。
*1)キャスト成長炉:焼成した石英るつぼの中で原料のシリコンを融解し、るつぼ内の下方から上方に向け結晶を成長する「キャスト成長法」に用いる炉。
現状、ほとんどの太陽電池は、単結晶シリコンないし、多結晶シリコンのどちらかから作製されている。そのうち、多結晶シリコンは、生産性の高いキャスト成長炉で作製でき単価は単結晶よりも安いという特長を持つ。JSTによると「太陽電池市場の60%」で多結晶シリコンが用いられるという。特にメガソーラーでは多結晶シリコンが主流で、変換効率18%前後の多結晶シリコンによる太陽電池が使われているとされる。
だが、多結晶シリコンは、結晶品質の優れる単結晶に比べ、太陽電池に用いた場合、1〜1.5%程度、変換効率が低くなる。加えて、キャスト成長炉で作製する際、石英製るつぼにインゴットが触れることで生じる機械的歪み(残留歪み)により、結晶品質が大きくばらつき、歩留りが悪くなるという課題がある。
生産効率と変換効率を両立する作製法
こうした中で、太陽電池業界では、生産性の高いキャスト成長炉を用いながらも、結晶品質(変換効率)の良い単結晶シリコンインゴットを作製できる技術開発が進められてきた。
中嶋氏らの研究チームは、従来のキャスト成長炉を用いる作製法(キャスト成長法)は、石英るつぼに入れたシリコン融液を一方向凝固させる手法のため、成長したインゴット結晶内に大きな残留歪みが存在することに着目。キャスト成長炉のるつぼ壁に触れずに、シリコン融液内で単結晶のシリコンインゴットを成長させる「NOC(Noncontact Crucible)成長法」を開発した。
成長炉に新たな工夫
NOC成長法を確立する上で「不純物の低減」「結晶内転位の低減」「酸素濃度の低減」などの実現する工夫を成長炉に施したとする。
不純物の低減では、炉の内容物であるグラファイト治具を全て真空中で長時間高温空焼きし、主な汚染物質である鉄不純物を除去。その結果、炉内の不純物を取り除けたことで、シリコンのライフタイム*2)が大きく向上し、金属不純物を取り除く加工(ゲッタリング)を施したウエハーでマイクロ秒単位のライフタイムを得たという。
*2)ライフタイム:熱平衡状態の半導体は光や熱などの作用を受けると、過剰キャリヤー(多数キャリヤーと少数キャリヤー)を作り非平衡状態となる。少数キャリヤーが再結合し消滅するまでの平均時間をライフタイムと呼ぶ。太陽電池においては少数キャリヤーが発電に寄与するため、ライフタイムが長いほど高い変換効率が得られやすい。
結晶内転位の低減は、結晶の引き上げ速度と回転速度を極力遅くすることで実現した。成長方向に凸の形状を持つインゴット単結晶を作製し、インゴット単結晶内の転位が成長するに従い結晶外に排出されるようにした。「この現象はNOC成長法により見いだされた効果であり、今回この手法を活用した」(JST)
酸素濃度の低減策としては、成長中のインゴット単結晶の回転速度を1rpmと小さくし、ルツボ回転速度も0.5rpmと小さく、しかも結晶と同方向の回転とした。これにより、シリコン融液内の対流を減らし、シリコン融液と石英ルツボ壁との溶解反応を抑え、酸素がシリコン融液に入るのを防いだ。結果、インゴット結晶内の酸素濃度を常に1×1018cm−3以下に保ち、最低酸素濃度を3.6×1017cm−3にまで下げることに成功した。
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