鉄道人身事故に打つ手なし!? 数字が語るその理由:世界を「数字」で回してみよう(33) 人身事故(1/6 ページ)
鉄道への飛び込みはどうもお手軽らしい。それは前回、明らかになりました。もしかすると鉄道会社はそれを体感的に知っているのかもしれません。対策を取ろうとは、しているのです。ところが、これは遅々として進みません。なぜか――。その理由は、ちゃんと数字が伝えてくれているのです。
「世界を『数字』で回してみよう」現在のテーマは「人身事故」。日常的に電車を使っている人なら、一度は怒りを覚えたことがある……というのが本当のところではないでしょうか。今回のシリーズでは、このテーマに思い切って踏み込み、「人身事故」を冷静に分析します。⇒連載バックナンバーはこちらから
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「子どもの見守りシステム」がビジネスとして成り立つには……
数年前だったと思いますが、私は、「子どもの見守りシステム」の研究に従事していたことがあります。
そもそも私は、「週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている(江端のprofileより抜粋)」というエンジニアです。
最近は、ここに、監視カメラやEtherCATのシステムまで加わって、“ホームセキュリティの九龍城砦”のようになってきていますが ―― ともあれ、監視システムについては、私は他の人よりは知っているエンジニアだと思っています。
しかし趣味とは異なり、企業は「もうけてナンボ」の世界です。CSR(Corporate Social Responsibility企業の社会的責任)とかいろいろ言われてはいますが、「もうからない分野」の研究に投資したって仕方ありません。
そこで、研究開始前の常道として、まずは「子どもの見守りサービス」の市場を調べ始めたのですが、調査を開始してみてすぐに、意外な事実にあ然としました。
―― 子どもが巻き込まれる犯罪の数が、減少し続けている
戦後からの長期的視点では当然としても、近年の顕著な少子化傾向*)を加味しても、犯罪の減少傾向は間違いありません。これは、私たちが日常的に感じている直感に反する結果です(これについては、機会があればお話させてください)。
*)参考記事:「驚愕の人口・高齢化予測〜70年後に日本の人口は半分、40年後に人類未踏の高齢社会」(Business Journal)
しかし、子どもが犯罪に巻き込まれるということは、「数の大小」の問題ではありません。子どもを守るべき大人は、たった1件の犯罪であっても許してはなりません。それは、金銭などで回復できるような被害ではないからです(江端家の、子どもたちに対する防犯ポリシーおよび運用ルールについても、機会があればいずれ)。
一方、ビジネスとして「子どもの見守りサービス」を運用するという観点では話は違ってきます。
「子どもの見守りサービス」を実現するには、高度なIT、OT(Operation Technology:制御技術)を駆使できる人間が大量に必要で、相当の難しい技術または運用の課題があるのです(数十万人の子どもを同時に見守る、救援態勢の構築・維持、アラートの誤報検知、子どもに持たせるデバイスの故障、その他、山ほど)。
大げさに言えば、NTTドコモやソフトバンクにセコムを足したような「見守りサービス」専用の会社を、もう1社作るようなイメージでしょうか。
中途半端なシステムを作っても、結局「見守り」の目的を達成できません。
といって、「本気の『子どもの見守りサービス』システム」を作ろうとすれば、国家予算レベルの予算が必要になります。当時、私は、資料の山の中で頭を抱えていたものです。
ある懇親会で、私は昔の上司から声をかけられて、自分の仕事の近況の話をしました。
元上司:「『子どもの見守りサービス』の検討状況は、どんな感じなの?」
江端:「だめですね。『子どもの見守り』を、わが社のサービスとして成立させるためには、毎日、平均子どもが10人以上誘拐されて、そのうち1人が殺されるという状況が必須です。まずは、この日本を、年間平均で300人の子どもが犯罪で殺害されるような社会にすることが優先事項ですね」
それを聞いた私の元上司は、引きつった笑顔をしたまま、少しずつ後ずさって、他の知り合いを見つけるやいなや、別のテーブルに去っていってしまいました。
私は、久々に出会った元上司と、ビールのグラスを片手に、軽いブラックジョークで盛り上げようとしただけなのですけど ――。
完全にスベりましたね。ええ、もう、そりゃ盛大に。
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