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鉄道人身事故に打つ手なし!? 数字が語るその理由世界を「数字」で回してみよう(33) 人身事故(6/6 ページ)

鉄道への飛び込みはどうもお手軽らしい。それは前回、明らかになりました。もしかすると鉄道会社はそれを体感的に知っているのかもしれません。対策を取ろうとは、しているのです。ところが、これは遅々として進みません。なぜか――。その理由は、ちゃんと数字が伝えてくれているのです。

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後輩レビュー

 初版をメールで転送した1時間後、あの「無礼な後輩」から電話がかかってきました。

後輩:「このコラムで、江端さんが何を主張したいのか、絶望的に分かりません」

江端:「何、言ってんだ。明快だろうが」

後輩:「どこが、どう、明快だと言うのですか」

江端:「鉄道の飛び込み自殺に対する(1)反撃の狼煙(のろし)、(2)2つの方法の提案と検討、そして(3)『解決方法なし』までの、一連の流れが、極めてロジカルに記載されているだろうが」

後輩:「そのようには、到底読めません。そもそも江端さんの『動機』が明記されていないから、江端さんの主張の立ち位置が見えません」

江端:「というか、立ち位置は、文章の中から読み取れるだろう?」

後輩:「……ああ、分かりました。そこだ、そこですよ。江端さんの今回の大失敗は」

江端:「今『大失敗』って言った?」

後輩:「あのね、江端さん。私たちは誰一人、江端さんの文章なんて、一行足りとも本気で読んじゃいないんですよ。そこのところ分ってます?」

江端:「はい?」

後輩:「私たち読者は、『口当たりのよい』『読み流せる』『心地のよい』『ラクちんな』文章を求めているんです。いわば、『ライトノベル』ならぬ、『ライトコラム』といったところでしょうか」

江端:「一体、何言っているんだ、お前?」

後輩:「私たちは、江端さんを“見下す”視点で、読んでいるんですよ ――『そうそう、そこだよ。そこ。頭の悪い江端も、ようやくそこに気がついたか』という風に」

江端:「それは、お前だけだ」


後輩:「それと、なんというか、文章全体が『不快』で読んでいられません」

江端:「それは、文章構成が、仮説検証法の体裁を成していないことが『不快』ということか?」

後輩:「それもあります」

江端:「それとも、叙述トリックに走り過ぎていて、イヤミ過ぎるところが『不快』ということか」

後輩:「それもあります」

江端:「じゃあ、本論の話と付録の話がごっちゃになっていて、ロジカルではないところが『不快』ということなのか」

後輩:「それもあります」

江端:「はっきりせんか――!!!」

後輩:「そうですね、あえていえば、今回の文章は、はっきりと指摘できない点が最大級の『不快』ということですかねぇ」

江端:「……お前、それ、レビュアとしての責任放棄だぞ」

後輩:「とにかく、現時点では何も指摘できませんが、とにかく『不快』です。このままではレビューできないので、全文から『不快』を取り除いて書き直した上で、再提出してください」

江端:「ちょっと待て! そんなむちゃなレビュー……」

と言い終える前に、電話を切られました。


 その夜、深夜までこの「正体不明の『不快』」を取り除く努力をして、翌朝、完成したのがこのコラムになります。

江端:「どうだ! これで文句ないか!」

後輩:「文句はないんですが、逆に、アラが見えてきました」

江端:「今度はなんだ!」

後輩:数字に『魂』がこもっていない

(次回に続く)

⇒「世界を「数字」で回してみよう」連載バックナンバー一覧


Profile

江端智一(えばた ともいち)

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。


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