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スマートロックAkerunは“飲み会”から生まれたIoTデバイスの開発秘話(2)(2/2 ページ)

「世界初」の後付けスマートロックである「Akerun」。同製品を手掛けるフォトシンス社長の河瀬航大氏は、「イノベーション・ジャパン」(2016年8月25〜26日/東京ビッグサイト)で講演を行い、Akerunが生まれた背景や、IoTスタートアップが乗り越えるべき3つの壁について語った。同社がAkerunを通して目指すのは、“物理的な鍵からの解放”だ。

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IoTスタートアップの3つの壁


スマートロックロボット「Akerun」

 次に、河瀬氏は自身の経験を基に、IoTスタートアップが乗り越えるべき壁として3つを挙げた。最初に訪れる壁は、「人」だ。大手電機メーカーも人員を削減する中、最近は人を採用しやすいと思われがちだが、手持ち資金を出し合って事業を進めるスタートアップが、大手電機メーカー出身のエンジニアにこれまでと同等の年収を払うのは難しい。

 「フォトシンスは週末プロジェクトから始まったことで、最初から6人と比較的多い人数で始められたのが良かった。2016年8月現在、正社員は23人まで増えたが、私の友人・知人が半数以上を占める。残りが社員の友人、業務委託からの採用、採用媒体。やはり、スタートアップに参画するにはリスクが伴うため、何でもできるエンジニアを採用するのは難しい。そのため、既存の知識に縛られない吸収力がある人、若くて情熱のある人、給与よりもビジョンに共感する人が良いのではないだろうか」(河瀬氏)

 2つ目の壁は、「お金」である。プロダクトの開発には、億単位の費用が掛かる。同社は、自己資金を出しつつ、助成金などを活用。創業から3カ月で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から最大6900万円、エンジェル投資家から2000万円、NTTドコモから最大4000万円。2015年9月には、ジャフコ、YJキャピタル、ガイアックス、ベータカタリストから、第三者割当増資により総額4.5億円の資金調達を実現した。


最初の資金調達では、PRの最大化に注力したという (クリックで拡大) 出典:フォトシンス

 河瀬氏は、「スタートアップにおいて、1番重要なのはPRと思っている。当社がPRで行ったのは、Akerunの世界観を前面に押し出すこと。限られた資本の中でPRをしっかりできれば、社会的期待を最大限高めることができ、次のエクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)につなげることができる」とする。創業当初の資金調達では、Akerunのプロトタイプ製作だけでなく、PRにも多くの投資を行ったという。

高機能化した新製品を発表

 3つ目の壁は、「モノ」である。プロダクトアウトの発想が強く、ユーザーが求めるものを開発できないという問題だ。河瀬氏は、ユーザーを見えにくくする3つの要素として、(1)メディア、(2)大企業との事業提携、(3)投資家を挙げた。

 メディアやその読者に目が行き過ぎると、面白いプロダクトを作ることに専念するだけになってしまう。また、「IoT化」が目的化している大企業との提携は、事業スピードを低下させてしまう可能性がある。投資家については、創業者側の問題ではあるが、売り上げを上げることに照準を合わせてしまいがちになると指摘している。


「Akerun」「Akerun Pro」以外にもさまざまな製品を展開 (クリックで拡大) 出典:フォトシンス

 同社は、ユーザーへの多くのヒアリングから、MVP(Minimum Viable Product)とコアターゲットの仮説立てを徹底して行うことで、ターゲットを「中小企業オフィス」と定めたとする。オフィスに電気錠を導入するには、高額の機器を購入するのに加えて、大規模な工事が必要なため、1つの扉当たりに70万円のコストが掛かる。また、マイナンバーや個人情報保護といった観点から、物理セキュリティ市場は増加傾向にあるからだ。

 そこで、2016年7月にAkerunを高機能化した「Akerun Pro」を発表。Akerun Proは、Akerunと比較して15倍の開閉スピード、1日100回の利用で約半年の寿命を実現。NFCリーダーを用いることで、SuicaやPASMOなどのNFCカードで施錠・解錠ができる。

 さらに、API連携によりユーザーが、さまざまな機能を追加することが可能だ。例えば、従業員の誕生日にバースデーメロディを流したり、外の天気の様子を教えてくれたりといった利用方法が考えられる。同社は今後、Akerun Proが鍵の開閉にとどまらず、さまざまなサービス・機能を付加したコンシェルジュのような役割を果たすことを目指していく。だから、同社は、スマートロック“ロボット”と呼んでいるのだ。


フォトシンス社長の河瀬航大氏

 河瀬氏は、「IoTプロダクトの成長戦略は、iPod→iPhoneと似ている。音楽を聞く専用のデバイスだったiPodから、ネットワークにつながるiPhoneが登場し、さまざまなサービス(アプリ)が充実したことで、どんどん価値が高まった。つまり、IoTはネットワークにつながるだけじゃなくて、付随するさまざまなサービスが生まれることによって、デバイスの価値を最大化させるような成長曲線をとるのではないだろうか。Akerun自体は、鍵を開閉するというシンプルな機能を持つハードウェアである。しかし、ホテルの予約システムや勤怠管理などのサービスとひも付けることで、鍵が多くの価値を持つようになる。これこそが、IoTの醍醐味(だいごみ)と思っている」と語った。

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