“後発・ローム”がパワーデバイスで成長できる理由:SiCはシリコンデバイス採用のトリガー(1/4 ページ)
ロームはパワーMOSFETやIGBTなどのパワーデバイス分野で売り上げ規模を拡大させている。パワーデバイス市場では、後発のローム。なぜ、後発ながら、自動車や産業機器などの領域でビジネスを獲得できているのか。ローム役員に聞いた。
パワーデバイス売上高576億円に
3年で売上高1.5倍――、ロームがパワーデバイスビジネスを急拡大させている。
IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)などのパワーデバイス市場は、伝統的な半導体メーカーがシェアを分け合う寡占化の進んだ市場であり、新規参入が難しい市場だ。その中で、それまで民生機器向けを中心に低耐圧半導体を主力としてきたロームは“後発メーカー”として参入。2015年度(2016年3月期)にはパワーデバイスだけで576億円を売り上げるまでに至った。
ロームは、なぜパワーデバイス市場で参入を果たせたのか。ローム取締役でディスクリート・モジュール生産本部長を務める東克己氏に、今後のパワーデバイス/ディスクリート製品事業における戦略も含め、インタビューした。
急ピッチでパワーデバイス製品群を整備
EE Times Japan(以下、EETJ) まず、パワーデバイス市場に参入し、事業を強化されている理由をお聞かせください。
東克己氏 ロームは過去、民生機器向けにデバイスを展開することで、売り上げ、利益を伸ばしてきた。小型化、薄型化など技術を民生機器市場で評価してもらってきた結果だった。
しかし、ご存じの通り、民生機器市場、特に国内民生機器メーカーは不振に陥った。また世界の民生機器市場は、コスト競争が激しくなり、デバイスに求められる要素も“コストの安さ”が占める割合が大きくなった。結果として、小型化、薄型化といったロームが提供してきた価値が相対的に低下してしまった。
そうした中で、売り上げ、利益成長を持続するための策の1つが、自動車や産業機器向けビジネスの強化、拡大だった。そして、自動車、産業機器の核となるデバイスは、パワーデバイスであり、SiC(炭化ケイ素)パワーデバイス、IGBT、パワーMOSFET、FRD(ファストリカバリーダイオード)といったパワーデバイスを網羅的に開発してきた。
特長ある製品投入
EETJ 参入障壁の高いパワーデバイス市場に参入できた要因は、どの辺りにありますか。
東氏 いくつか理由はある。例えば、パワーデバイスは、パワーデバイス単体での提供ではなく、モジュール、インバーターや電源までに仕上げて、ソリューションとして提供する必要がある。しかし、ローム1社単独でソリューションを作り上げることは難しく、まずは協業の形でのビジネスからスタートさせた。
また、後発だからこそ、他にない特長を備えた製品を投入した。パワーMOSFETであれば、高速逆回復時間に特長を持たせた「Presto MOS」や、IGBTとスーパージャンクション(SJ)MOSFETの良さを兼ね備えた「Hybrid MOS」などだ。こうした特長のあるパワーデバイス製品は、白物家電など向けのIPM(インテリジェントパワーモジュール)を製造する企業に採用され、これまでデバイス単体として実績を積んできた。
そして、ようやく、2015年頃から、ロームとしても、制御ICを含めロームとしてIPMを製造できる体制が整い、白物家電などに向けてのビジネスをスタートできた段階だ。
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