高度な安全機能を備えた「ARM Cortex-R52」:自律走行に必要なリアルタイム性能も実現
ARMは、次世代の自律走行システムなどの用途に向けたリアルタイムプロセッサ「ARM Cortex-R52」を発表した。「ARMv8-Rアーキテクチャ」を採用した最初のプロセッサとなる。
「ISO 26262 ASIL D」と「IEC 61508 SIL 3」に適合
ARMは2016年9月21日、高レベルの機能安全が求められる用途向けに、リアルタイムプロセッサ「ARM Cortex-R52」を発表した。「ARMv8-Rアーキテクチャ」を採用した最初のプロセッサで、車載/産業用機器向け安全規格「ISO 26262 ASIL D」と「IEC 61508 SIL 3」に適合するよう設計されている。
Cortex-R52は、安全性に特化しつつ、リアルタイム性を担保したプロセッサで、現行の「ARM Cortex-R5」の上位製品と位置付ける。パワートレインやシャシー、先進運転支援システム(ADAS)といった車載用途を始め、医療/産業用ロボットなど、高レベルの機能安全が求められる用途に向ける。機能安全にかかわる承認手続きを簡素化することも可能になる。
Cortex-R52は、ハードウェアでの仮想化に対応するハイパーバイザーをサポートしており、Cortex-R52上で複数のOSを動作させてもリアルタイム性を保証する。コンテキストスイッチの時間も短縮したという。100個を超えるECUを搭載した車載システムなどで、いくつかの機能を1個のECUに統合して、安全に運用する場合などに有効だという。
エラーマネジメント機能を強化
Cortex-R52は、Contex-R5に比べて「新しい特権レベル」や「レベル2メモリ保護ユニット(MPU:Memory Protection Unit)」「バスインターコネクトプロテクション」などの機能を新たに追加した。エラーマネジメント機能については強化を図ったという。
アーム応用技術部のシニアマネジャーを務める中島理志氏は、「エラーの要因としては、偶発的なものとシステム的なものが定義されている。ARMはプロセッサのマイクロアーキテクチャによる対応だけでなく、開発プロセスに起因するシステム的エラーに対しても、セーフティマニュアルなどを用意し提供する。これらを活用することによって、ライセンシーはより早くマイクロコントローラー/SoCの製品立ち上げが可能になる」と話す。
Cortex-R52は、Contex-R5に比べて性能面でも改善している。Green Hills Compiler 2017を使用したEEMBC AutoBenchでは、「クラス最高となる1.36Automark/MHzというスコアを達成した」という。DMIPSやCoreMarkなどの数値を比較しても「平均して20〜30%の性能改善になる」(中島氏)と語る。さらに、割り込み応答性は2倍、コンテキストスイッチは14倍高速とするなど、ベンチマーク以外の性能も大幅に向上した。
Cortex-R52は最大4コアを内蔵することができる。ロックステップシステムについてはライセンシーが判断して、その構成や実装を決めるという。
STMicroelectronicsがライセンス取得
Cortex-R52を製造するための推奨プロセス技術や動作周波数などの質問に対して、今回はコメントしなかった。また、パートナーとして対応するOSベンダー名なども公表できる段階ではないとして、明らかにしなかった。なお、STMicroelectronicsは、車載用SoCの開発に向けて、Cortex-R52のライセンスを取得したことをコメントで発表した。
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